トップセールスが「他社商品を売る」理由
僕は外部の「勉強会」に講師としてよく呼ばれます。
講演した後は、一期一会ですから聴衆の方とお話をするようにしています。あるとき、九州在住の生命保険の超優秀なセールスパーソンが集まる会に講師として、お呼びがかかりました。
その際、70代の営業職員の女性Aさんが僕にこう尋ねてきました。
「ライフネット生命の保険を売らせていただけませんか?」
生命保険のセールスパーソンは業界全体で約25万人います。そのうち、生命保険協会認定のTLC(トータルライフコンサルタント)という最高峰の資格を持つ人は、わずか7000人。この資格ホルダーは、驚くべき契約件数と契約額を誇る稼ぎ頭です。Aさんもこの資格を持っていました。
生命保険のセールスパーソン25万人は、1年間で10万~15万人が入れ替わるといわれている超競争社会で、20~30年継続しているベテラン職員はおそらく日本全国でも数万人しかいないでしょう。TLCの皆さんは、文字通り、精鋭中の精鋭の実力者ばかりなのです。
Aさんの質問に対して僕は次のようにお話しました。
「売っていただくのは大変ありがたいことです。ただ、(セールスパーソンに支払う)当社のコミッションは、(お客さまが毎月払われる)保険料の数%分=数百円にしかなりません。年収何千万円以上のTLCの皆さんに扱っていただくのは、少し申し訳ない気持ちになります」
すると、Aさんは、冗談めいた表情でこう答えました。
「私はそんなお金が欲しいわけではないのですよ」
聞けば、Aさんの顧客は主に開業医などの富裕層。自分から飛び込み営業などをしなくても、クチコミで顧客はひっきりなしだというのです。それも、1件数億円といった破格の契約金の保険を成約させることも珍しくはない。話が来れば、自腹で飛行機に乗って、北海道でも沖縄でもすぐに駆けつけるそうです。
ならば、なぜ、月数百円しか儲からない仕事をしようとしたのか。
次のような事情があったのです。社会人になったばかりの開業医の甥に「いい保険を(知り合いの若者に)教えてやってよ」と乞われたものの、自分が扱う商品の保険料は少なくとも月1万~2万円はかかる。その若者の手取り月収は約15万円。また、そうした低収入は若い世代共通のものだということも分かった。
そこで、よりリーズナブルで商品としてもしっかりしているライフネット生命の商品を紹介したい、ということだったのです。Aさんは言いました。
「必要以上に高い保険をすすめても(自分が得るコミッションは増えるけれど)、私の評判が落ちるだけですからね。若い世代が、立派に成長して出世したら、また改めて紹介ができるのですから」