重くのしかかったのは、治療費より○○費
ちょうど、会社で大きなプロジェクトリーダーを任された直後のことで、なんとか治療と仕事の両立を図れないものかと主治医や上司とも相談したが、結局、治療を優先することになり、Aさんは一時休職することになった。
その間、加入している健康保険から給料の2/3程度の傷病手当金を受け取ることはできたものの、翌年の年収は3割減少してしまった。Aさんは、罹患後の家計の現状について、次のように語る。
「手術のときの入院費用や抗がん剤治療などの費用は、それなりにかかっていると思いますが、高額療養費制度なども利用できましたし、それほど負担には感じませんでした。それよりも大変だったのが、毎月の生活費や住宅ローン返済、子どもたちの教育費負担ですよ。とりわけ、長男は希望していた私立高校に進学できたものの、学費以外に制服や学校指定の学用品、修学旅行の積立金、さまざまな行事への参加費用、塾代などがかかりました。これが案外重くのしかかってくるんです」
ちょうど、術後のケアなどで病院にお金がかかる頃で、まさに、お金に羽が生えたように飛んでいくように感じたそうだ。しかも、教育費はこれにとどまらなかったのだ。
「その高校は、在学中に海外への語学留学を積極的に行っていて、長男もそれが魅力で進学を希望していましたからねえ。その費用が100万円以上かかります。今さら参加させられないとはなかなか言えなくて。本当は、次男も長男と同じ私立高校に行かせるつもりだったんですが……最初は、蓄えもそれなりにあったので、あまり心配していませんでした。それが、収入はぐんと減ってしまうし、支出は増える一方だしで、いったん取り崩し始めると、(手持ちの金融資産は)どんどん減っていくのが、本当に怖かったですね」
ちなみに、Aさんはがん保険など民間保険には加入していなかった。健康には自信があったからだが、まさか自分たちの生活がこんな風に一変してしまうとは想像だにしていなかったという。
Aさんは、なんとか復職して年収もある程度元の水準に戻った。ところが、5年後に肝臓に転移が見つかり、1000万円もの金融資産は5年で底をついた。今後、会社を辞めざるを得なくなったときのことを考えると、治療どころではないという。