“T”1文字のデザインが非常識である理由

つけ加えると、そもそも五輪のルーツは欧州の王族の集まり。ベルギーはその“親玉”とされる。しかもトーマス・バッハIOC現会長に勲章を与えたのはベルギー国王だ。劇場側の代理人となったのは、そのベルギー国王の顧問弁護士であり、ベルギーやルクセンブルクの著作権法制定を主導した著作権法の大家とされる。これはどう見ても分が悪い(劇場側は訴訟取り下げ。デザイナーは継続)。

ここは組織委、エンブレム選考委員の総入れ替えと同時に、責任の所在をはっきりさせて処罰を下し、相手にきちんと謝って訴訟を取り下げてもらうよう懇願する必要がある。

欧米に比べて日本は、パロディやパクリに寛容な国である。日本では公知のデザインに似ていても、多少異なる部分があればオリジナルと認めてもらえる。また、いくら公知の文化に似たデザインであっても、それが商標登録されていなければ、咎められることはない。

しかし、海外ではそうはいかない。たとえば日本では、マンガ「ドラえもん」によく似たキャラクターをつけたお菓子が堂々と販売されているが、これが欧米なら、たとえドラえもんが著作権登録されていなくても、確実に喧嘩を仕掛けられる。

相手を怒らせてライセンス契約を断られてしまったら、少なくともその国ではそのロゴやデザインが使えなくなる。一般の企業でも大損害だが、五輪エンブレムとなれば、なおさら致命的だ。

ただ、同じ日本でも世界中に展開している大手メーカーなら、商標登録に際しては必ずネガティブチェックを実施し、各国での調査には常に現地の調査会社を使っている。

某大手メーカーでは、自社のブランド名を登録する際、全世界で調査を行った。ほとんどの国で問題はなかったが、ただ1人、ある国の有名サッカー選手が新ブランドと同じ名前だった。これも権利侵害の一種である。個人の名前は商標登録などされていないから、こうした問題は現地のプロが入念なネガティブチェックを行って、初めてわかるものだ。

このメーカーは件の選手にコンタクトし、「サッカーをイメージするような宣伝は行わない」と約束することで、新ブランド名の使用を認めてもらうことができた。世界展開している企業は、商標による権利侵害にここまで気を配るのだ。

これまでの各国五輪のエンブレムでも、権利侵害には十分な注意が払われていた。08年の北京五輪のエンブレムは、走る人をモチーフとし、筆で描いたような独特なデザインだった。東洋的な絵柄も手伝って、海外での権利侵害は起こりにくい。16年開催予定のリオ五輪では、知財専門の企業がデザインを考案した。

多くのスポンサーに提供され、かつ全世界で使用される商標のデザインは、造形としての良しあし以前に、「権利問題が起きにくいデザインであること」が求められるのだ。

だから商標の世界では、たとえば「アルファベット3文字以内の組み合わせはNG」が常識である。使う文字数が限られているので、すでに使われているロゴやデザインが必ず存在するからだ。2文字はさらにだめ。まして今回のエンブレムのような「T」1文字では、どこをどういじっても、世界のどこかに類似のロゴが存在するのは当たり前だ。