危機と挫折の経験で読み方が変化する本

『失敗の本質』を「経営に活かしている」と言えるようになったのは、この10年のこと。2005年にヤマト運輸に移るまで、私は銀行員として働き、その中で数多くの失敗を経験してきた。ヤマトグループの経営に関わる際、「これまでの失敗から何を学ぶべきか」を整理しようと本書を改めて読み直した。失敗の経験をしていると、本書から多くの気付きを得られる。いまでも読むたびにマーカーや付箋が増えている。

(右)ヤマトホールディングス会長 木川 眞氏(左)『失敗の本質』

最初に手に取ったのは20年ほど前だ。バブル崩壊後の「平成不況」で、「失敗」が気になって手に取った。その後自身が救済策を検討していた大手企業の経営破綻で大きな挫折を感じ、また自身の銀行も経営危機に見舞われたことで、「失敗」について深く考えるようになった。

また、01年9月11日の米同時多発テロ事件への対応でも、反省すべき点があった。当時、私は人事部長として現地とやり取りをしていたが、1カ月後に現地を訪ねたとき、本社からのリモートでの指示が逆に現場を混乱させていたことを痛感した。この経験は、11年3月の東日本大震災発生時に現地トップに全権を委任するという対応に活きた。

ヤマトグループに移ったとき、経営陣からは「次の100年の成長戦略を一緒に考えてほしい」というミッションを与えられた。これから日本の人口が減少していき、伸び続けている宅急便事業も成長の限界を迎える。そして人手不足も深刻化する。一方、市場の動きをみると、世界中の荷物が小口貨物のまま国境を越えて動く時代が到来しつつある。特にネット通販などの「eコマース」は今後も成長が見込まれる。市場の変化に対応することが求められていた。