ホンダが米国で開発した7人乗りの小型ビジネスジェット機「ホンダジェット」が日本に初めて飛来。「日本の皆さんにも間近で見てもらえる機会を頂き、感無量という気持ちです」。同社航空機事業を手掛けるホンダ エアクラフト カンパニーの藤野道格社長は満面の笑みを浮かべた。創業者の本田宗一郎氏がオートバイや自動車だけでは飽き足らず「空へも羽ばたく夢」を描いてから半世紀余。藤野氏自身もホンダ入社3年目で航空機の基礎研究に着手してから足掛け30年にもなる。
藤野氏は東京大学で航空工学を専攻したが、立ち上げ当時の開発メンバー全員が航空機ビジネス未経験者で「試行錯誤の連続だった」。しかも、初期投資の期間がとてつもなく長く開発費が膨大なことから“放蕩息子”と揶揄され、事業計画縮小や撤退について検討されたこともある。それでも航空機設計ではタブー視されていた主翼の上にエンジンを置く構造など、常識にとらわれない独創的技術の開発に挑戦する藤野氏らの熱意が伝わり、頓挫の危機を脱した。
今秋にも納入するホンダジェットの価格は450万ドル(5億4000万円)。「すでに受注は欧米の顧客を中心に100機以上あり、5年後には黒字化を目指す」(藤野氏)と意気込む。だが、世界のビジネスジェット市場は必ずしも視界良好とは言い切れず、今後も順調に量産を重ねて採算ベースに乗せられるのかは不透明。ようやく“本家本元”日本で創業者の夢を実現させたとはいえ、しばらく気を抜くことはできないだろう。
ホンダ エアクラフト カンパニー社長 藤野道格(ふじの・みちまさ)
1960年生まれ。東京大学工学部航空学科卒。84年本田技研工業入社。86年より航空機の研究開発に携わる。2006年より現職。
1960年生まれ。東京大学工学部航空学科卒。84年本田技研工業入社。86年より航空機の研究開発に携わる。2006年より現職。
(写真=AFLO)