価格は約20万円。ロボット市場でも得意の「価格破壊」を起こせるのか。その狙いとは──。
パソコン1台と変わらない値段
「一般家庭向けに発売します。価格は、19万8000円です」
2014年6月5日、千葉・舞浜の大ホール。ステージに立った孫正義社長の言葉に会場中がどよめいた。「安い」。
ソフトバンクのロボット事業参入発表会のひと幕だ。孫社長とともに壇上に立ったのは、真っ白な体の人型ロボット「Pepper(ペッパー)」。身長120センチと10歳児ほどのサイズで、手足や首をなめらかに動かしながら軽快なトークを繰り広げ、会場を笑わせてみせた。
ペッパーの機能じたいは珍しいものではない。関節をなめらかに動かせる等身大の人型ロボットはすでに本田技研工業の「ASIMO(アシモ)」などがあり、人工知能による会話も、iPhoneに基本機能として搭載されるなど一般化した技術だ。
革新的だったのはその価格だ。等身大人型ロボットの販売価格は数百万~数千万円が相場。ペッパーは「ゼロを1~2個間違えたのでは」と疑うほど低価格だった。「パソコン1台の値段と変わらないんです」。孫社長は胸を張る。価格がコストを下回る“逆ざや”だが、一般家庭で購入できる水準に抑えることで、広く普及させる計画だ。
孫社長にとってロボット開発は、「鉄腕アトム」を観ていた子供時代からの夢だった。10年に発表した「新30年ビジョン」の中でもロボットの時代を予見。世界のロボット企業をリサーチし、ペッパー開発元の仏アルデバランに投資していた。
「いかに低コストでつくるかに注力した」。ペッパーの開発を取り仕切ったソフトバンクロボティクス代表取締役社長 冨澤文秀氏は言う。
孫社長から「ロボット事業をやれ」という“勅命”を受けたのは2年半前のこと。野球場で日本シリーズを観戦していたときに言われたという。冨澤氏の守備範囲は広い。携帯電話契約者向け副商材の事業責任者、電力事業の責任者などを兼任。孫社長からの“無茶ぶり”にも慣れており、驚きはなかった。
「5年前なら、この価格では実現できなかった」(冨澤氏)。ネットにつながる賢いロボットを低価格で実現できる環境は整いつつあった。