三菱重工業の子会社、三菱航空機(名古屋市)が2017年の商用化を目指して開発を進めている国産初の小型ジェット旅客機「MRJ(三菱リージョナルジェット)」に、明るい日差しが差し込みだした。日本航空が8月28日、32機の発注を発表。MRJの受注総数はこれによって400機程度と見られている採算ラインに手が届いたためだ。過去3度にわたる開発計画延期に加えて、小型機市場で圧倒的な強さを持つブラジルのエンブラエル、カナダのボンバルディアとの競争で苦戦が予想されただけに、国も開発予算をつぎ込んだ「日の丸ジェット」にようやく離陸への視界が広がってきた。

「世界に冠たる日本のエアラインからの受注は海外に優れた航空機との裏付けになる」――三菱航空機の江川豪雄会長は、同日の記者会見で満面の笑みを浮かべた。MRJ納入にいち早く名乗りを上げた全日本空輸に日航を加えた日本勢がそろって導入を決めたことで、未知数だったMRJの受注に一段と弾みが付く可能性があるからだ。日航の購入額は定価通りなら32機合計で約1500億円に達するものの、日航の植木義晴社長は「良い交渉だった」と述べ、大幅値引きもうかがわせた。

MRJの受注をめぐっては、日航は早い段階から導入を働きかけられてきた。しかし、経営再建中の身で導入には慎重な姿勢を崩さず、08年に25機の導入を決めた全日空とは対照的だった。しかし、国も絡む日の丸ジェットに失敗は許されず、政府は日航に導入を促し、日航は政権奪回後に何かとバッシングを受けてきた自民党への配慮もあり、導入に折れたとも見られ、政治の影がちらつく。

日航の導入決定により、MRJの受注総数は、大型受注となった米スカイウエストの200機を含めて407機に達した。数字上は採算ラインに“軟着陸”できたと受け止められるものの、楽観は許されない。受注総数のほぼ4割はキャンセル可能な「購入権」の契約であり、さらに商業化の時期が大幅にずれ込むようなら賠償問題も発生しかねない。日の丸ジェットが巡航速度で航行できるまでは技術面も含め、まだまだ難関が待ち受ける。

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