(6)小さなことでも、何かしてあげる

誰かに何かしてあげたら、あなたはその相手に対して途方もなく大きな支配力や影響力を持つことになる。チャルディーニは『Influence: The Psychology of Persuasion』で、互恵主義という不文律と、他人が自分に与えてくれたものにお返しをする義務をわれわれがどれほど強く感じているかを取り上げている。この不文律は、西洋文化だけでなく世界中のあらゆる人間社会に深く根づいている。

チャルディーニは、2つの対象者グループと、対象者を装った1人の「サクラ」を参加させた実験を紹介している。第1のグループのメンバーは全員ジョー(サクラの名前)から小さな「親切」を受けた。ジョーが彼らにコーラを取ってきてくれたのだ。第2のグループは何の親切も受けなかった。その後、ジョーはそれぞれのグループに、自分から宝くじを買ってもらえないかと持ちかけた。ジョーからコーラをもらった対象者たちは、何も受け取らなかった対象者の2倍の枚数の宝くじを買った。宝くじを購入した人々は、彼にお返しをしなければという思いにかられたのである。

われわれは概して、受けた親切より大きな親切を返す必要があると感じるものだ。興味深いことに、お返しがこのように不公平であるにもかかわらず、われわれは他人の親切を断ることもできないようだ。チャルディーニはこう語る。「お返しの義務は互恵主義のルールの本質だが、このルールをこれほどつけ込みやすくしている要素は、受け取る義務である」。

間接的に人を動かすのは、従来の高圧的な手法やパワープレーに頼らずに他人に影響を及ぼすことにほかならない。相手や状況によっては直接的な手法が必要だが、それで望ましい反応を引き出せない場合は、間接的な手法によるさりげなさや、きめ細かさが必要になってくる。大切なのは、多様な手段を使えるようにしておくこと、そして最大の効果を得るには、それをいつ使えばよいかを心得ていることなのだ。

(翻訳=ディプロマット)