交通事故の賠償金はどのように決まるのか。弁護士の山岸久朗さんは「損害賠償額には裁判例で集積した一定のルールがあり、だれがどんな事故に遭っても同じような金額になるようにできている。一方で、賠償金の多寡にかかわる『遊びのある項目』もいくつか含まれており、腕のいい弁護士はそこで差をつける」という――。(第3回)

※本稿は、山岸久朗『人生のトラブル、相場はいくら?』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。

事故車両
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弁護士の腕が試される判例の「遊び」

交通事故が報道されない日はありません。いつだれが被害に遭うとも知れず、一瞬のできごとで、本人または家族が被害に遭った人の驚き、怒り、悲しみは計り知れません。

特に、後遺症が出るほどの被害に遭った人が望むことは、元の体に戻して欲しいということだと思います。ましてや、不幸にして事故によって亡くなった人の遺族は、亡くなった方を生きて返して欲しいと思っていらっしゃいます。

しかし、残念ですがそれは叶いません。結局、裁判制度では最終的にはお金で解決するしかないのです。抑えられない怒りと悲しみを癒し、静められない怒りをなんとか静めて生きていくしかないのが現状です。

弁護士は被害者側のそんな気持ちを汲みながら1円でも多くの賠償金を加害者から取ることを使命としています。被害が大きい交通事故の損害賠償請求は、弁護士にとって、とても悲しい仕事です。

交通事故の損害賠償額は、裁判例で集積した一定のルールがあり、だれがどんな事故に遭っても同じような金額になるようにできています。たとえば大阪地方裁判所の場合は緑色の表紙の通称『緑のしおり』があります。

東京地方裁判所の場合は青色の表紙の通称『青い本』という本で、そのほか、全国版として赤い表紙の通称『赤い本』があります。3つの書籍の基準額は少しずつ違いがありますが、この本を基準に賠償額の請求をしていくのが基本です。それは公平のためです。

ただし、遊びのある項目が中にいくつか含まれています。そこが弁護士の腕によって差が出る場所なのです。