離婚時の慰謝料はどうやって決まるのか。弁護士の山岸久朗さんは「不貞行為やDVなどの不法行為があったとしても、心の苦痛を金額で換算することは難しい。日本ではアメリカと違って、慰謝料の相場はおおよそ決まっている」という――。(第1回)

※本稿は、山岸久朗『人生のトラブル、相場はいくら?』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。

離婚同意書と結婚指輪
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なぜ離婚の慰謝料は200万円が相場なのか

「慰謝料」は、精神的苦痛を慰謝してもらうために払ってもらうお金です。離婚の責任がある人(有責配偶者)が、相手を精神的に辛い気持ちにさせてしまったとき、心を慰謝するために払います(ただ、私がかつて経験した中には扶養的慰謝料という事例がありました。

これは不貞行為があり無一文で家を出た妻に対して、裁判所が収入、財産がある夫に対し、「このままでは奥さん飢え死にするからいくらかお金払ってくれ」と言って扶養的慰謝料が例外的に払われたものです。このように慰謝料にはさまざまな種類があるので注意が必要です)。

日本では精神的慰謝料といって、心の苦痛に対して支払われる慰謝料がほとんどです。最高裁判所の調査による『司法統計』を見ると、不貞行為、DVなど不法行為の種類にかかわらず、実際に下りた慰謝料の額は、100万~300万円の中に収まり、私の感覚で約200万円というのが一番多い金額です。

心の苦痛という目に見えず、人によって感じ方の違うものを金額で換算するのは困難なので、裁判官はどうしても過去の例を参考にせざるを得ず、どんなケースでも一律の金額になりやすいので問題です。有責配偶者の収入、財産を問わない金額なので、この点、今後、日本の裁判も変化していかないといけない時期に来ているのではないかと思います。

慰謝料で金額以上に揉めること

よく、大金持ちの男性が、浮気が妻にばれて慰謝料を請求された際に、「えっ、200万円でええの? ほな払っとくわ」と嬉しそうに言うてるのを聞きます。これでは妻側は納得いかないでしょう。欧米のように、夫を懲らしめるような高額の慰謝料が認められてもいいのではないかと思います。

離婚問題で一番揉めるのが慰謝料で、たとえば中高年の夫婦が離婚する、いわゆる熟年離婚の場合、財産分与をすれば1000万円単位のお金の攻防になります。

たとえば財産が4000万円あったら、財産分与したら4000÷2でそれぞれ2000万円になります。これは相当に高額なのに、不思議と、財産分与については夫婦は揉めないことが多いです。スッと支払が済んで離婚が成立します。

それに対して慰謝料はせいぜい200万円と金額は少ないのに、財産分与をそっちのけにして金額でエスカレートします。慰謝料が争点となった場合は、離婚に際してどちらが悪かったかを認定しないといけないため、揉めるのです。

毎回、裁判前に準備書面が敵方から私の事務所にファックスで届くのですが、うちの依頼者の悪口ばっかり30枚ぐらい来ることがざらにあり、なかなかファックスが止まりません(笑)。

読むと、「新婚旅行の時に……」とか何十年か前まで遡っての恨みつらみが書き連ねられていて、慄いたことがあります。