離婚時、子どもの親権はどのように決まるのか。弁護士の山岸久朗さんは「親権者を決める判断材料に『母性優先の原則』があり、裁判で長期に闘っても最終的には母親側が勝つことが圧倒的に多い。裁判で父親が親権を取れた事例は、長い弁護士人生の中で2回しかなかった」という――。(第2回)

※本稿は、山岸久朗『人生のトラブル、相場はいくら?』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。

離婚と慰謝料の概念
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離婚でお金よりずっと揉めること

よく、芸能人など有名人が離婚したとき、「親権は○○さんが持つことになった」と情報番組で紹介されることが多いですね。親権とはそもそも何でしょうか。

親権とは未成年の子どもの利益のために親が子どもを養育・監護する権利であり義務を指します。具体的に法律で定められているのは「身上監護権」と「財産管理権」です。

「身上監護権」は子どもを監護、教育する権利で、たとえば受験する場合の同意書に記載する権限などです。

「財産管理権」は子どもの財産を管理し、これに関する法律行為を代理する権利、たとえばバイクを買うので親権者のサインが必要という場合などを言います。これをどちらが持つかを決めるわけです。

協議離婚の場合はどちらが親権を持つかを話し合い、合意したら離婚届の「未成年の子の氏名」の「夫が親権を行う子」か「妻が親権を行う子」の欄に子どもの名前を書きます。

夫婦が離婚に同意していても、子どもの親権が決まらない場合は離婚はできません。どちらが親権を持つか合意できない場合は調停が行われます。

私の経験から言うと、離婚する夫婦は慰謝料または財産分与など、お金に関しては最終的にはどこかで折り合いをつけます。しかし、こと子どもの問題に関しては一度揉め始めたら最後まで揉め、長期化する場合が多いです。その一番多い例が親権です。金については折れても子どものことは折れないのです。

父親が親権を取れないワケ

現在、家庭裁判所で使われる言葉に「母性優先の原則」というものがあります。子どもの親権者は母性を有する者が望ましいという考え方で、家庭裁判所が親権者を決める判断の一つになっています。父が親権者になることはほぼなく、裁判で長期に闘っても最終的にはお母さん側が勝つことが圧倒的に多いです。

私のところに法律相談に来る男性でもまず、「親権を取りたいのですが、勝てますか」と言う人が結構います。私は事実を丁寧に聴取した上で、現在の家裁の実情を説明し、父親が親権を取るのは至難の業と伝えています。

「会社員をなさっていますが普段、夜は何時ごろに帰宅しますか」「あなたがいない時間はだれが子どもを養育するのですか」「子どもが熱を出したときにいつでも早退できますか」そう伝えるとたいていの男性は諦めます。

父親が親権を取ろうとしたら転職するなどして仕事をセーブしたり、実家の近くに転居して昼間は親にサポートしてもらったりすることが必要です。現状を考え、がっくり肩を落として泣く泣く諦める人がたくさんいます(ただし、この説明は、新しく始まる共同親権制度を度外視した説明です)。