「子どもの幸せ」を願うなら…

私は、思わず裁判官に向かって「おんどれは鬼か(『あなたは鬼ですか』という意味の関西弁です)。子どもらの気持ちが分からんのか。ここで無理に兄弟を引きはがしたら、一生心に残る傷ができるぞ」と叫びました。

すると、子どもの弁護士が「子どもたちの心情を思うと、さすがにそれは厳しい判決なのでは」と裁判官に対して意見を述べました(その弁護人は「子どもの権利委員会」に所属していて子どもの権利を守ることを専門にしている人です。

「子どもの権利委員会」は日本弁護士連合会が子どもの権利保障を確立するために設置している委員会で、学校でのいじめや家庭での虐待など子どもの人権問題に関する調査・研究・提言・家庭裁判所での子どもの代理人活動などの課題に取り組んでいます。

私も、駆け出しのころは、「子どもの権利委員会」に所属していましたが、何度か少年事件で子どもに裏切られ、行かなくなってしまいました)。

すると裁判官たちが集まって合議をした上で、元妻が別室に呼ばれ、「本裁判は本来の姿ではなく特例として行われているが、どうしても子どもたちを引き離して渡せというのは子どもの心にさらに傷がつくので裁判所としてはできない」と伝えたそうです。

裁判
写真=iStock.com/gorodenkoff
※写真はイメージです

それでも、父親が親権を取るのは至難の業

最終的に元妻側の弁護士が諦めるように元妻を説得し、元妻は怒って般若のような目をしていましたが、弁護士が連れて帰りました。夕方から行われた裁判ですが、裁判所を出たのは夜中になっていました。その後、私からさらに裁判を起こしました。親権をお父さんに変更すべきという裁判です。

すでに2人の子どもが成長していて自分の意思をはっきりと言える年齢になっていたので、お父さんがいいと意思表明できたことと、また、長期間にわたって父親が養育している実績が重視されて、Aさんが兄弟両方の親権者になることができました。

私としては私の指導ではないものの、Aさんが裁判所の判決や強制執行という法的手続きに全く従わなかったわけなので複雑な思いでした。その反面、Aさんと子どもたちはたいへん私に感謝してくださり、今も3人で幸福に暮らしています。

山岸久朗『人生のトラブル、相場はいくら?』(幻冬舎)
山岸久朗『人生のトラブル、相場はいくら?』(幻冬舎)

もう1件、父親が親権者になれた例があります。それは夫が船乗りで長期に家を留守にしている家庭でした。

夫が不在の間、妻は乳児をひとりで家に置き去りにしたまま、毎日のように風俗業のアルバイトをしていました。それが分かって裁判になり親権が争われましたが、妻のネグレクト(育児放棄。幼児虐待の一種)が認められて、夫が親権者になることができました。

逆に言えば私の長い弁護士生活で裁判になって夫(父親)が親権を取れたのはこの2例だけです。

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