不倫母を味方した「母性優先の原則」
例外的に次のような事例がありましたので紹介します。
私が法律相談を受けた男性が、長期にわたって親権を争った事例です。Aさん(当時35歳)はあるとき、妻が浮気しているのではないかと思いました。そこで自宅の玄関に隠しカメラを仕掛け、2人の子ども(ともに男児、当時5歳と2歳)を連れてわざと外出しました。するとその日、別の男性を自宅に招き入れている様子がちゃんとカメラに映っていました。
夫は妻を家から追い出し、私に離婚調停を依頼したので、家裁に申立しました。妻は不貞行為を認め、妻の不貞行為による離婚ということになりました。さて、親権をどうするかです。
皆さんは「子どもがいるのに男性を家に招き入れるような人間に親権は渡せないのでは?」と思うでしょう。ところがこの妻は、「不倫したことはごめんなさい。慰謝料も払います。でも親権は全く別問題だから絶対に欲しい」と言ったのです。
法律では不貞行為が離婚原因であることと、親権をどちらが取るかは切り離して考えられています。ですからこの妻の主張は実は間違っていないのです。
私は夫側の弁護士として調停と裁判を闘いました。結果はどうなったでしょう。裁判官は妻に親権を与えるという判決を下しました。やはり、「母性優先の原則」が強かったのです。
法に背いた父の執念
私は『子どもにとって母は絶対に必要、父よりも母が必要』という考え方は、100%そうとは言い切れないと思っています。個々の家庭の実情に合わせて、場合によっては男性に親権を与える判決も下すべきだと思うのですが、なかなかそうはなりません。
裁判所は「母性優先の原則」を盾にして、細かい事情を見ずに、一律母親と判断して、楽しようとしているのではないか。
さて、Aさんはどうしたでしょう。Aさんは「絶対に親権を取る!」と言ってそれまでの仕事を辞め、パートタイムの仕事に就いて子どもたちの世話を始めました。
すでに判決は出ているので、いつ子どもたちの引き渡しの強制執行があるか分かりません。Aさんは必死になって自分が子どもの面倒を見ることができるという既成事実を作ろうとしたのです。
私も元妻側の弁護士から「早く引き渡しなさい。もう判決は出てるんだから」とさんざん怒られました。私は、「私もそのように本人に話しましたが、本人がどうしても渡さへんと言ってるんで打つ手なしです。先生もAさんの気持ちは分かるでしょう。もしもお宅の奥さんが浮気して出ていって親権欲しいと言ったら、『何を言うてきとんねん』と思うでしょう?」と言ってやりました。

