もう1つの鍵、アントレプレナーシップとは、ここでは企業内起業を指す。大企業であっても、今後アントレプレナーシップを育て、成長事業を創出することが必要である。

企業内で新たに起業したい分野、部門、個人を育て、それを成長させていくのだ。たとえば2013年12月にマザーズに上場したシグマクシスというビジネスコンサルティングサービスを手掛ける企業がある。同社は三菱商事の出資で設立され、現在も大株主である。

ほかにも、パソナはすでに大企業化しているが、そこからスピンアウトしたベネフィット・ワンという会社がある。企業の福利厚生業務の運営代行サービスを行う企業で、大幅に伸びており、新しい富を生み出している。

このような形で次々に新しいビジネスを創出し軌道に乗せていくことができれば、今後の成長も望める。給料ランキングの上位に入る有名大企業は人材も資本も充実しているのだから、あとは「やるかどうか」だけである。

現在高給の大企業について言えば、業種で一括りに語ることができず、同業種でも各社の成長戦略次第だ。つまり経営力の差によって企業間格差が大きくなっていく。

携帯電話業界を例に考えてみよう。NTTドコモとソフトバンク、将来性があると思われるのははたしてどちらだろうか。

かつてはNTTドコモが圧倒的優位だった。しかしソフトバンクが13年4~12月期の決算で売上高、営業利益ともにNTTドコモを抜いた。直近では米国のスプリントを約216億ドルで買収するなど、グローバル展開にも積極的だ。ソフトバンクの攻めの経営戦略が維持されれば、NTTドコモは置いてきぼりにされるだろう。ソフトバンクはグローバルな大企業となり、片やNTTドコモは日本国内の大企業にとどまってしまうのだ。

グローバル展開、アントレプレナーシップに加えて、規制緩和も現在の大企業の給与に影響を与えそうだ。というのも、アベノミクス第三の矢は、規制緩和を柱の1つとしている。規制に守られて安穏としている業種は危うくなる可能性がある。

業種別平均給与ランキング2位のテレビ・放送業界がその1つだ。規制に守られ、歴史的にテレビ局の社員の給与は高く、下請け企業は安月給という状況が続いてきた。グローバル展開とは縁が遠く、アントレプレナーシップも薄い。今後参入障壁が下がり、低コストで質のよい番組を提供できる企業が出てくれば、いまの給与水準は維持できなくなる。

既得権益に安住して切磋琢磨を怠った産業が衰退するのは必然である。ただし規制緩和を機に自己変革を起こせば、新しい成長の芽も生まれる。

米国では、自由化によって金融業界で新しいビジネスがどんどん生まれた。日本の規制産業でも、規制緩和をチャンスに新ビジネスを生み出すことができるかどうか。今後の成長はそこにかかっている。

国際金融コンサルタント 菅下清廣(すがした・きよひろ)
1969年立命館大学卒。大和証券、メリルリンチ、ラザードジャパンアセットマネジメント日本法人社長等を経て98年独立。マーケットを予測する「スガシタレポート」が好評。最新刊は『ゼロから富を作る技術』。
(構成=宮内 健 写真=PIXTA)
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