4. 成長戦略に「残業代ゼロ」日本版エグゼンプション
安倍首相は残業代や休日・深夜労働の割増賃金を支払う必要のない残業代ゼロの「新しい労働時間制度」の創設を6月発表の「成長戦略」(日本再興戦略改訂2014)に盛り込んだ。日本版ホワイトカラーエグゼンプションだ。
第1次安倍政権下で世論の反対で廃案になったが、今度は成長戦略の労働改革の目玉として装いも新たに蘇らせたのである。現行の労働基準法では労働時間の上限を1日8時間、週40時間(法定労働時間)とし、それを超えて働かせる場合は1時間につき25%以上の割増賃金(午後10時以降の深夜残業の場合は+25%の計50%、休日労働は+35%の計60%)を支払うことを義務づけている。
制度が実現すれば、この残業代が消えてなくなることになる。ちなみに2013年の一般労働者の月間残業時間は15.5時間、残業代は約3万1600円(毎月勤労統計調査、事業所規模30人以上)。年間の残業代は1人あたり約38万円になる。
現在は年収1000万円以上の高度の職業能力を持つ人材に絞って政府の審議会で検討されており、2015年の通常国会に法案を提出する予定となっている。ところが、衆議院解散が決まった直後から審議会はストップ。自民党の選挙公約にも記載されてはいない。選挙のじゃまになる争点隠しとの批判もある。
じつは当初は1000万円でも、翌年以降に800万円、600万円に下がることもあり得る。安倍首相自身も下がる可能性を否定していない。2014年6月16日の衆議院決算行政監視委員会で安倍首相は民主党の山井和則議員の質問に関してこう答弁していた。2人のやりとりはこうであった。
山井議員「5年後、10年後も1000万円から下がらないということですか」
安倍首相「経済というのは生き物ですから、全体の賃金水準、物価水準、これはわからないわけですよ。(中略)現在の段階における賃金の全体的な状況からすれば、今の段階で1000万円とすれば、800万円、600万円、400万円の人は当然入らないのは明確であります。今後については3原則に則ってしっかりと進めていくということであります」
安倍首相が言う3原則とは「希望しない人には、適用しない」「職務の範囲が明確で高い職業能力を持つ人材に、対象を絞り込む」に加えて「働き方の選択によって賃金が減ることのないように適正な処遇を確保する」という3つのことだ。
だが、これには年収要件は入っていない。最大のポイントは「高い職業能力を持つ人材」という対象であり、年収については経済情勢の変化という含みを持たせつつ、下がる可能性があることを示唆している。衆議院選挙で勝利し、4年間の政権を手中にすれば、引き下げるタイミングも早くなるだろう。
(参考記事:戦慄試算! 「残業代ゼロ」対象500万人で39歳は203万円収入ダウン http://president.jp/articles/-/13071)
※以下、5~8の重大ニュースは次回