「この世にくだらないものなんてない」

はたして実現できるのか、すぐに起業することもためらわれ、出雲は大学卒業後、2002年に東京三菱銀行(当時)に入行。業務が終わると、ミドリムシの培養を研究し続けている鈴木の狭いアパートに行って寝るという奇妙な半同棲生活を続けた。しばらくそんな生活を続けていたが、二股をかけるような生活に疑問を抱き、知人のアドバイスもあって退路を断つことにした。

まだ培養の目処は立っていなかったが、翌03年に銀行を退職。同僚や上司も慰留し、両親も止めたが、出雲は決意を変えなかった。

出雲は中野にその思いを伝えたところ、中野は過去に蓄積してきた貴重な研究データを出雲に譲ると共に、日本のミドリムシ研究のためにと、国内の研究者たちに協力を呼びかけてくれた。

研究者たちの私心を捨てた協力のおかげで、2005年、ついに世界で初めて大量培養に成功する。従来、クリーン度を上げようとしていたやり方を変え、ミドリムシには影響を与えないが、それ以外の生物は生きられないような培地を作り上げたのだ。

実はこの成功の前に培養プールを借り受けるために05年、出雲はユーグレナを設立していた。製法が確立していないのに、培養プールを先に借りたわけだ。

世界の専門家も出雲たちの快挙に驚きの声を上げたが、だからといってすぐに事業化できたわけではない。

ミドリムシ入りの製品を開発しても全く売れず、いくら粉末を売り込んでも企業から門前払いを食い続けた。その間、何度現金がなくなりかけて倒産の危機に瀕したかわからない。だが、2008年に大手商社の担当者の奮闘もあって、研究開発費として出資を受けることができた。その日を境に風向きが変わり、次々と企業からの引き合いが増えていった。

2014年4月、ユーグレナはミドリムシ入りのクッキーをバングラデシュの子どもたちに無償で提供する「ユーグレナGENKIプログラム」を開始した。現地で、給食がない小学校の児童に配布し、定期的に健康診断を行いながら、栄養改善を図る目的だ。出雲が大学1年の時に志した思いの第1歩が始まった。

出雲は「この世にくだらないものなんてない」と語る。ミドリムシのようなどこにでもいる微生物が地球を救えるのだから、世の中のあらゆる存在には意味がある。

企業も規模ではない。社会に必要である限り、どんな企業も生き残るはずだ。
(文中敬称略)

株式会社ユーグレナ
●代表者:出雲充
●創設:2005年
●業種:ユーグレナの研究開発、製造、販売など
●従業員:74名(グループ)
●年商:20億9197万円(2013年度)
●本社:東京都文京区
●ホームページ:http://euglena.jp/
(日本実業出版社=写真提供)
【関連記事】
『食糧危機が日本を襲う!』
資源小国ニッポンを救う「エネルギー」の潮流
ミドリムシで地球を救う【1】 -対談:ユーグレナ社長 出雲 充×田原総一朗
エネルギー強靱化の秘密兵器は「水素」にあり
「ポスト京都の切り札」石炭火力でCO2を削減せよ