若い頃から中国国内各地を歩きまわっていた私にとって、一番好きな原風景は蘇州から南京へ行く途中の田園風景だ。まさに、いくら見ても見飽きない山水画そのものだった。しかし、1980年代後半「世界の工場」となったこの一帯は、コンクリートの工場棟が緑の田園を蝕み、覆い隠してしまった。もう車窓の風景を見ることもなく、いつしか、山水画のような風景も思い出さなくなった。だが本書を読んだときにその風景が一気に蘇った。

「農業を疎かにする国は滅びる」「多くの経済大国は食糧生産大国でもある」。著者が指摘するように、主要な経済大国の食料自給率は高い。米国は128%とトップを走るが、フランスも122%と負けてはいない。ドイツは84%で、日本の半分以下の人口の英国も70%と日本を大きく引き離している。データは2003年のものであるが、十分な重みを持つ。