日本の伝統文化や産業を乳幼児用に活用するというかつてない試みで、新たなコンセプトと市場を作った企業が「和える」だ。産着、器、コップなどの子供の日用品を伝統産業の職人の手で作ってもらう。2011年に22歳で創業した社長の矢島里佳は志した道を突き進む。2014年7月には自叙伝『和える-aeru-伝統産業を子どもにつなぐ25歳女性起業家』を出版した。
いいものは赤ちゃんほどわかる
日本には焼き物や漆器、藍染など伝統産業の産地が多い。そこで生み出される品物のよさはわかっているが、高価なものという先入観から日常的に使う人は少ない。
その伝統産業の職人技で、0歳から6歳までの乳幼児の日用品を作るという、かつてない発想で新市場を切り開いているのが、和えるを創業した矢島里佳(26歳)だ。
乳幼児にそんな高価なものを与えても「猫に小判」で、わからないのではないか。だが、矢島は首を横に振る。
「職人さんが時間をかけて作る。その想いをむしろ大人の方がわからない。赤ちゃんや子供は触るだけでわかるんです」
同社の製品の1つである手漉き和紙のボールを触った赤ちゃんが手放さなくなり、取り上げると大泣きし、戻すと泣き止むことに、購入した母親が驚いたと矢島に語ったことがある。筆者も、幼児はプラスチック製の箸よりも伝統的な木製の箸を選ぶという話を以前、聞いた。普通の大人が気づかない子供の感性を矢島はわかっているように思える。
「大人にとっても子供にとっても自然な素材は気持ちがいいものです。普通のボールが床に放り出されていると片付けたくなりますが、和紙のボールが転がっていても気にならないというお客さんが多い。和えるの商品は物的ストレスが少ないとよく言われます」
和えるの商品は人気で、生産が間に合わず予約注文になっているものが多い。
例えば徳島県の本藍染で作られた「徳島県から 本藍染めの出産祝いセット」。オーガニックコットン製の赤ちゃん用産着、フェイスタオル、靴下の3点セットで2万5000円(以下、全て価格は税別)もするが、売り切れ状態だ。職人の手仕事で、30回前後もの染めを繰り返した一品である。