日本企業2社がリードする事業化プラン

わが国のエネルギー戦略をめぐっては、2011年3月の東京電力・福島第一原子力発電所の事故を契機にして、さまざまな検討が重ねられてきた。そこで主として取り上げられたのは原子力と再生可能エネルギーであり、ガス・石炭・石油などの化石燃料についても、ある程度の検証が行われた。しかし、これらの議論は、一つのエネルギーを置き忘れたままであるかのように見える。長いあいだ、「遠い未来のエネルギー」とみなされてきた水素が、それである。

エネルギーとしての水素利用をめぐっては、急速に事業化プランが具体化しつつある。その先頭を切っているのは、千代田化工建設と川崎重工業の日本企業2社である。今回は、日本のエネルギー戦略の「秘密兵器」ともいえる、これら両社の水素事業化プランを紹介することにしよう。

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図1 千代田化工建設の水素サプライチェーン構想

13年8月、横浜市にある千代田化工建設の子安オフィス・リサーチパークを訪れ、同社が事業化をめざしている大量水素輸送技術の実証装置を見学する機会があった。この実証装置は、油田・ガス田や炭鉱の近くに設置される水素化プラントと、日本などの水素消費国に設置される脱水素プラントの2つの部分からなっている。図1にある通り、原油・天然ガス・石炭から取り出した水素(H2)を水素化プラントでトルエンと反応させて運びやすいMCH(メチルシクロヘキサン、常温・常圧では液体)に変え、それを日本などに運んで脱水素プラントにかけて水素にもどし利用する(その際、脱水素プラントで水素から分離されたトルエンは、水素化プラントへ移されて再利用される)という構想である。

この構想のポイントは、MCH化することで「運びやすい水素」「貯めやすい水素」を実現した点にあり、この「使いやすい水素」を千代田化工建設は、「SPERA(スペラ)水素」と名づけている。SPERAとは、ラテン語で「希望せよ」という意味をもつ言葉だそうだ。「SPERA水素」は、たとえばペットボトル状の容器に入れることも可能であり、使い勝手がいい「SPERA水素」が普及すれば、水素を活用したいという人類の希望は、文字通りかなうことになる。

「SPERA水素」による水素サプライチェーン構想を支えているのは、千代田化工建設が成し遂げた2つの技術革新だ。1つは、水素をガソリンの主要成分であるトルエンに固定することによって常温・常圧で取り扱いやすいMCHに変える、有機ケミカルハイドライド(OCH)法。そしてもう1つは、MCHから水素を取り出す際に必要な脱水素触媒を、ナノテクノロジー技術を駆使して開発したことである。