二重三重に有意義なプロジェクト

千代田化工建設の子安オフィス・リサーチパークに出かけた3カ月前の13年の5月には、オーストラリアのビクトリア州メルボルンを訪れ、川崎重工業が事業化をめざしているCO2フリー水素チェーンの関連施設を見学する機会があった。川崎重工業は、ほかの地域でも水素チェーンの構築をめざしているが、このオーストラリアのプロジェクトは、ビクトリア州で大量に産出する褐炭を起点にするという点で、ユニークなものである。

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図2 川崎重工業の水素エネルギーチェーン構想

褐炭由来のCO2フリー水素チェーンとは、図2にある通り、ビクトリア州で褐炭ガス化水素製造装置を稼働させ、現地でCCSを行うとともに、積荷基地から水素を専用の水素輸送船で日本の揚荷基地に運搬し、わが国において水素発電、水素自動車などの形で活用しようとするものである。この水素チェーンが実現すれば、CCSの本格的実施と水素利用の活発化によって、地球環境の維持に大きく貢献することになるが、効果はそれだけにとどまらない。

オーストラリアにとっては(とくに同国内のニューサウスウェールズ州やクイーンズランド州に比べて高品位炭に恵まれていないビクトリア州にとっては)、褐炭ガス化水素製造装置から副生されるアンモニアや尿素を活用して化学工業や肥料製造業を振興させることができれば、念願の褐炭(低品位炭)の有効利用を達成することができる。一方、日本にとっては、「二国間オフセット・クレジット方式」(外国において温室効果ガス排出削減に資する技術や製品・サービスの提供を行い、実現した排出削減効果の一定部分を日本の削減目標達成に組み込む仕組み)に近いやり方で、CCSに協力し国内で水素発電を行う事業者には、同時に最新鋭石炭火力発電所の新増設をある程度認めるというシステムを導入するならば、日本経済にとって最大の脅威の一つとなっている発電用燃料コストの膨脹を抑制することができる。このように褐炭由来CO2フリー水素チェーンの構築は、二重三重に有意義なプロジェクトなのである。

川崎重工業のオーストラリアでの事業提携先であるHRL社では、水分を多く含む褐炭を対象にして、総合石炭乾燥・ガス化技術(IDG)をすでに確立している。メルボルン東郊のラトローブバレーでは、オーストラリア最大の褐炭炭鉱が大規模な露天掘りを行っており、その炭鉱とコンベヤーで直結される形で南半球最大のロイ・ヤン褐炭火力発電所(A・Bプラントの合計で6基320kW)が稼働している。同じラトローブバレーには、褐炭ガス化水素製造装置のパイロットプラント建設に適した、HRL社の社有地もある。一方、メルボルン西郊のジーロング港は、パイロットプラントで製造される水素を送り出す出荷港としての準備を整えつつある。