バングラデシュで知った危機の現実

こうした事情を出雲は知らずにこの世界に飛び込んだ。知らなかったからこそ、飛び込めたのだろう。

出雲は1998年に東京大学文科三類に入学し、当時は漠然と国連で働きたいと思っていた。ところが、大学1年の夏、バングラデシュへ海外旅行して人生が変わった。

栄養豊富なミドリムシを摂ることができる「飲むユーグレナ」。

「当時は貧困も飢餓も栄養失調も同じだという認識しかありませんでしたが、バングラデシュでは毎食おいしいカレーを食べているんです。お米は穫れるし、カロリーは足りていました。問題はビタミンや鉄分、カルシウムなどの栄養素が不足していたこと。子供たちは免疫力が低下し、病気になりやすくなる。貧困の問題は飢餓ではなく、栄養素の不足による栄養失調だと初めて知ったのです」

帰国した出雲は3年時に農学部へ転向した。栄養失調をなくすために必要な食品を探るために農業や栄養素の勉強をしようと思った。誰かれかまわず、まんべんなく栄養素を得られる食品を聞いて回ったが、そんな都合のいいものはない。

そんな中で、農学部の友人であり、現在ユーグレナの取締役研究開発担当である鈴木健吾に話すと、ミドリムシなら植物と動物の間の生き物だから、豊富な栄養素を持っていることをあっさりと教えてくれた。

意外な答えに驚いた出雲が調べると、まさにミドリムシは理想の栄養源だった。

出雲は鈴木を誘って、ミドリムシの大量培養を実現することを決意した。だが、調べれば調べるほどその困難さがわかってきた。

出雲と鈴木はニューサンシャイン計画を引き継いだ大阪府立大学名誉教授(現在)の中野長久(よしひさ)をはじめとした研究者たちを訪ね歩いて、話を聞いたが、ますますその難しさを思い知らされた。