アベノミクスの“第三の矢”に組み込まれたクラウドファンディング。小口の資金を大勢の人から集める新しい資金調達のツールを使って成功する企業も現れ始めた。しかし、手放しで喜べない側面もある。
セキュリテを県民発電所で活用
ファンド型クラウドにはミュージックセキュリティーズ(MS社)というパイオニアが存在する。自立した事業者を支援する「マイクロ投資」のプラットフォームとして、同社が運営しているのが図1の「セキュリテ」だ。
投資家と事業者の間で匿名組合契約を結び、投資家から集めた資金を元手に事業者はプロジェクトを進める。そして、そこから上がってきた事業収益を投資家に分配金としてリターンする(図2参照)。これまでの実績を見ると、扱ったファンドの数は259件で、募集総額は42億円強に達する。
MS社はセキュリテのスタート当初から、このシステムが資金の回りにくい首都圏以外の地方企業への新たな資金調達ルートになると考え、大阪や熊本で支店を開設し、地元企業のニーズの開拓に乗り出してきた。今年1月に県民から出資を募って発電事業を展開する「県民発電所構想」を明らかにした熊本県のプロジェクトでは、同社のセキュリテが活用される。
「第一号は天草市にある旧県立高校の空き地を使った太陽光発電所で、総事業費は約2億6000万円が見込まれています。事業の主体は選定された地元の業者ですが、このうち1割くらいについて、ファンド型クラウドを通して県民から出資を募ることになる予定です」と、所管する熊本県商工観光労働部の緒方克治審議員はいう。
今回MS社は「他のクラウドファンドと同じと誤解されたくない」との理由で取材に応じなかった。クローズドな姿勢は投資家のお金を扱う金融取引業者として疑問に思えるが、そう主張するのも理解できる部分がある。同じ匿名組合を利用した貸付型クラウドの一部に、「通常では考えられない高利回りを提示して投資を勧誘している仲介業者がいる」(消費者団体関係者)との指摘があるからだ。