アベノミクスの“第三の矢”に組み込まれたクラウドファンディング。小口の資金を大勢の人から集める新しい資金調達のツールを使って成功する企業も現れ始めた。
世界各国7万人とコンテンツづくり
2013年10月2日――。将来、この日は日本のゲームクリエーターにとって“革命記念日”になるかもしれない。カプコンの元常務執行役員で「ロックマン」「鬼武者」など世界的なミリオンセラーを連発し、カリスマクリエーターとして名を馳せた稲船敬二氏がCEOを務めるゲームソフトの企画・開発会社「comcept(コンセプト)」が、世界最大のクラウドファンディングのプラットフォームである米国のキックスターターで384万5170ドル、またペイパルで20万1409ドルの資金を調達したからだ。
「10年12月に創業した当社の資本金は1000万円で、銀行に融資を依頼しても4000万円の調達すら難しかったはず。それがクラウドファンディングを利用することで、円換算で4億円以上もの資金を一気に調達できました。それと、会社などから出資を受けて開発を行った場合、クリエーターに著作権は残りません。しかし、今回のクラウドの資金の出し手は“出資者”ではなくて、私たちの“支援者”なのです。そうした人たちに支えられながら自分たちのつくりたいゲームを世に出し、手元に著作権を残せるようになったことの意義は大きい」
胸を張りながら語る稲船CEOが活用したクラウドファンディングだが、この言葉を初めて目にした人も多いのではないか。「クラウド」はよく新聞やテレビで見聞きするクラウドコンピューティングのクラウドと同じで「群衆」を意味する。そして「ファンディング」が「資金調達」で、大勢の人々から小口のお金を集めることを指す。
モーツァルトやベートベンたちはパトロンに頼るだけでなく、一般の市民から集めたお金を創作活動に充て、曲が完成したらお金を出してくれた市民に一枚一枚楽譜を渡していたという逸話が残っているように、クラウドファンディングそのものは以前から存在していた。しかし、いまでは昔と違ってインターネットが普及したことで、より広範囲な人々への呼びかけが瞬時にできて、お金も集めやすくなっている。