10年後、5兆円市場に成長が見込まれるのが、「水素」ビジネスだ。世界のエネルギーが大きく変わる可能性もある!
2025年には、17倍の水素が必要となる
日本国内で、水素社会の実現を可能にするためには、水素ステーションの設置だけでなく、燃料である水素をいかに安く大量に製造するかが重要なカギを握る。
水素の製造方法として(1)製鉄所や石油精製所から出る副生水素を利用する方法、(2)天然ガスなど化石燃料を改質する方法、(3)電力により水を分解する方法などがあるが、製造コストや環境負荷を比較すると、一長一短がある。さらに、水素の貯蔵や輸送などのプロセスで新たなイノベーションが必要となるため、水素サプライチェーンの構築に企業各社がしのぎを削っているのが現状である。
ここで、水素社会実現へブレークスルー(突破口)する可能性を秘めた企業を紹介したい。
千代田化工建設は、海外の油田で採掘時に発生するガスに含まれる水素を有機溶剤に溶かし、「常温で輸送できる」画期的な技術を開発した。こうして国内に輸入した水素を利用し、川崎市内に世界最大級の水素供給基地を建設する計画だ。
川崎重工業もオーストラリアで褐炭から水素を取り出して、日本に輸入する計画を進める。液化水素の専用運搬船を独自に開発し、輸入した水素を燃料とする水素発電所の建設を視野に入れている。
化学工場などで使われる産業用水素を扱う岩谷は、1978年に液化水素プラントを初めて本格稼働させて以来、水素を安全かつ効率的に利用するさまざまなノウハウを蓄積してきた。
とくに貯蔵・供給の拠点になる水素ステーションの建設では、独産業ガス大手リンデと連携し、彼らが欧州で展開するステーション関連機器を国内に持ち込むことで、日本仕様に合わせてコスト削減に取り組んだ。まだ技術的にはリンデが開発した装置を輸入せざるをえないが、岩谷の常務執行役員である宮崎淳は、「心臓部はリンデに依存しているが、メンテナンスや設備の交換などはどんどん国内に移管して、いずれ内製化することで製造コストを抑える努力をしたい」と、新しいビジネスに意気込みをみせる。
岩谷は、25年に燃料電池車が200万台普及するという前提のもとに燃料電池車向けの水素需要見通しとして、その時点の水素需要を24億立方メートルと試算する。12年の産業向け水素需要が、1.4億立方メートルのため、現在の17倍の水素が必要となる計算だが、いずれにせよ膨大な水素の供給量が必要となる。
このように、上流から下流にいたる水素のサプライチェーンを構築するためには、まだ残された課題が数多く存在する。