エネファームが“歩兵”。燃料電池車が“騎兵”

11年3月11日に発生した東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故を契機に、原発依存を減らしながら、日本全体のエネルギー政策を根本から見直す必要性に迫られた。この流れの中で新たに注目されたのが「水素」で、政府が作成した「エネルギー基本計画」(案)でも「水素社会の実現に向けた取り組みの加速」という強いトーンの記述が目につく。

「普及初期においては、水素ステーションの運営は容易ではなく、燃料電池車の普及が進まなかった場合には、水素ステーションの運営がますます困難になるという悪循環に陥る可能性もある」

本来、当たり障りのない記述に終始しがちな政府の文書にあって、「悪循環に陥る可能性」にまで言及するのは異例のことだ。明らかに電気自動車(EV)の普及が壁にぶつかる現状を意識した表現で、燃料電池車はこの轍を踏まないよう「官民の適切な役割分担の下、規制の見直しなど低コスト化に向けた対策を着実に進める」よう提言している。

米国は新エネルギー・シェールガスの恩恵を受け、新たな経済発展の局面に入った。米国発のシェール革命と、燃料電池車やエネファームを中心とした水素社会とが、どのような関連性を持ちながら進展していくのか。経産省で燃料電池推進室長を経験し、現在、一橋大学大学院特任教授を務める安藤晴彦はこう考える。

「シェール革命は、北米からは遠い日本にとって、恩恵を受けられない可能性があります。そうした視点に立てば、日本にも交渉カードが必要になりますが、それがまさに『水素』なのです。エネファームが“歩兵”のように家庭に入っていき、燃料電池車が“騎兵”のように社会に入っていけば、水素社会の実現は十分可能となるでしょう。水素は、日本のエネルギー安全保障上、一つの“重要な切り札”になります」

こうしたシナリオの先には、今から6年後に開催される東京オリンピックがある。この大イベントが、日本の技術力を世界にアピールする「ショールーム」の役割を果たすのは間違いない。水素社会が根づくかどうか、20年が試金石になるのは明らかで、日本が背負った課題は重く、厳しい。

(文中敬称略)

(青沼修彦、永野一晃、大沢尚芳=撮影)
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