10年後、5兆円市場に成長が見込まれるのが、「水素」ビジネスだ。世界のエネルギーが大きく変わる可能性もある!

「電力のホワイトプラン」を売り込め

それは、1通のメールから始まった。米シリコンバレー滞在中のソフトバンク・孫正義社長から、東京本社の経営戦略室長に宛てられた2行のメールである。

「天然ガスを利用したクリーンな発電システム。すぐに日本での導入検討を」

2012年末、このメールをきっかけに、ソフトバンクで、次世代エネルギーの本命と目される水素を使った燃料電池(FC)システムの導入計画が一気に走り出した。

ブルームエナジーサーバー/ソフトバンクは、水素分野にもビジネスを展開しようとする。

メールから半年たらずの13年5月、システムを開発した米ベンチャーのブルームエナジーとの合弁会社が設立される。さらに半年後の11月、福岡県福岡市内にあるソフトバンクグループのオフィスビル「M-TOWER(エムタワー)」で、業務用燃料電池である「ブルームエナジーサーバー」1号機の運転が開始された。

ブルームエナジーサーバーは、幅約9メートル、高さ約2メートル、厚さ約2.6メートル。発電能力は200キロワット、20階建てオフィスビルの電力約75%を賄うことができる。

米国で24時間365日稼働する「分散型電源」として導入されたブルームエナジーサーバーは、グーグル、ウォルマート、コカ・コーラといった大企業をはじめ、病院、データセンターなど100カ所を超える施設で利用されている。

三輪茂基・ブルームエナジージャパン社長は、業務用燃料電池事業で日本の電力市場に風穴を開けるべく奮闘する。

ソフトバンクが合弁会社を通じて、非常用や自家発電用の電力として日本の官公庁や企業に売り込む。これまで日本では産業用燃料電池の普及が遅れてきたが、ソフトバンクは、今後3年間に計3万キロワット分の電力の供給・販売を目指す方針だ。

1年に満たないスピードで、ビジネスを立ち上げたのが経営戦略室長(当時)の三輪茂基である。現在、ブルームエナジージャパンの社長を務めるが、狙いについて、こう語る。

「よく勘違いされるのですが、このビジネスは機器を販売する“機器売り”ではありません。ソフトバンクが手掛けるiPhone、iPadの『ホワイトプラン』のように、『電力のホワイトプラン』だと考えてもらえばいい。つまり、機器を売るのではなく、お客様にご利用いただいた分の電気を売る。いわゆる、“売電ソリューションサービス”なんです」

三輪は、燃料電池ビジネスに夢を持つ。

「これが、水素社会の実現に向けた“ブリッジ”の役割を担うと思います」