年率1.4倍のペースで伸び続ける家庭用燃料電池の市場だが、国の補助金との関係で「価格」が決まる傾向がある。当初は145万円程度だった補助金が、13年度45万円、14年度38万円と低下傾向にあるため、加藤は、「年々すごい勢いで(補助金が)下がっているので、その分価格を下げないと消費者の負担が増えてしまう」と語る。燃料電池が普及するためにも、さらなる技術開発が必要となるのは明らかだ。
家庭用燃料電池の本格的な普及が始まり、15年からはホンダとトヨタ自動車も、燃料電池自動車を販売する。燃料電池自動車への参入は、水素社会を実現するための大きな一歩になるが、そのためにも、水素インフラの整備が不可欠で、その目的で設立されたのが、水素供給・利用技術研究組合(HySUT)だ。
HySUTに加盟する石油会社や自動車メーカーが、燃料電池車が市場に投入される15年までに、国内で100カ所の水素ステーションの建設をスムーズに進めるためには、水素の安全性に不安を感じる消費者へ啓蒙活動を地道に続ける必要があり、「実証実験を通じて水素の安全性に対する“心の壁”を取り除くよう努力したい」と、HySUT理事長の斎藤健一郎(JX日鉱日石エネルギー)は話す。
水素の安全性の確立――。この技術の壁を突破すべく日々研究開発に取り組む中堅企業が大阪にある。自動車部品の鍛造メーカー、サムテックで、水素ステーション向け貯蔵タンクの製造が手掛けられている。アルミ製のタンクに炭素繊維を巻きつけて強度を高めた構造により、極めて高圧の水素を蓄えることができる。
サムテックは13年度から量産体制に入っており、15年までに100カ所を目指す水素ステーションのうち60カ所程度にタンクを納入したい考えを持つ。米航空宇宙局(NASA)にもタンクを納入した実績のあるサムテックだが、阪口善樹社長は、アルミと炭素繊維で構成される水素タンクの軽量化を強調しながら、「うちの水素タンクは軽いだけでなく、炭素繊維により十分な強度が保証されているので、ガソリンスタンドの屋根に載せることも可能です。既存のスタンドを簡単に水素ステーションに変えることができるため、インフラ整備を一気に進める“テコの役割”が果たせると思います」と、熱意を込めて話した。
(文中敬称略)