福岡県知事として構想を発案した麻生も、研究センターが功を奏したと感じる。

「水素エネルギーによる新たな文明づくり」を熱望する麻生は、“大きな青写真”を掲げ、日本から世界に水素エネルギーの重要性を発信していく必要性を説く。

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燃料電池市場は5兆円規模に!

「地球温暖化の問題をはじめ、人類に突きつけられた課題は一朝一夕に解決できるものではありません。しかし、クリーンで非常に効率的なエネルギーは、水素を経ることによって生まれる。水素がエネルギーのあり方を非常に大きく変えることは間違いありません。『20年に開催される東京オリンピックで、燃料電池車を走らせる』のが私の願いです。選手の送迎バス、選手村の電気などはすべて水素で賄うオリンピックは、『CO2のない東京』を世界に向けてPRする絶好の機会だと思っています」

業界初、マンション向け燃料電池

先駆的な福岡県の例に、水素社会実現への流れを紹介したが、民間企業の参入はどうか。水素社会の実現には新しい「インフラの整備」が不可欠だが、逆にいえば、さまざまな企業に新しいビジネスのチャンスがあるということだ。富士経済によれば、燃料電池市場は、25年に5兆円規模まで急拡大すると予測している。

パナソニックは、09年から「エネファーム」ブランドで一戸建て向け燃料電池事業に乗り出したが、マンション向けは業界初となる。パナソニック燃料電池技術グループマネージャーの加藤玄道は、「ドイツなどの欧州諸国にエネファーム事業を展開したい」と意気込みを語る。

パナソニックは、家庭用燃料電池である「マンション向けのエネファーム」を東京ガスと共同で開発し、14年4月から販売を開始した。これまで、一戸建て向けの燃料電池は存在したが、マンション向けは業界初となる。各戸の玄関脇に設置できるよう、従来の戸建て住宅用の部材をコンパクトに集約する設計をした点に特徴がある。価格が“高い”イメージを持たれがちな燃料電池だが、パナソニックは部品点数の削減や軽量化に取り組むことで、戸建て住宅用の従来機種価格と同じ199万5000円に抑えた。発電能力は最高750ワット、3人家族で光熱費を年間6万円程度節約できるという。

今回、仕様を変えるために、設置スペースや耐震性など新たに工夫しなければならない点がいくつもあった。これらをクリアして発売に漕ぎ着けたわけだが、パナソニック燃料電池技術グループの加藤玄道グループマネージャーは、こう話す。

「09年に1号機を出した当時は、他社も含めて横型が主流でした。でも、弊社は第二世代から縦型にして、マンションのような狭い場所に入る設計に変えました。形だけではなく水回りやガスの流れもすべてマンション型の仕様にしました」