規制緩和を求める民間からの要望に応え、政府は日本再興戦略の一環として、13年6月の閣議で「燃料電池自動車用水素タンク・水素ステーションに係る規制の見直し」を決定した。これは、15年の燃料電池車の市場投入に向けて、水素ステーションの整備を支援することで、「世界で最も速い燃料電池車の普及を目指す方針」を明確にしたものだ。
しかしながら、閣議決定から半年以上が過ぎても、現場から聞こえる不満の声は一向に収まる気配がない。爆発の危険がある水素は安全な管理が必要とはいえ、安全対策を事業者に委ねて規制を最小限に抑えたドイツに比べて、「日本の対応はあまりにも杓子定規だ」との不満が依然として燻っている。
九州大学名誉教授・村上敬宜は、「インフラ整備の遅れが、日本全体の水素社会を実現する“足枷”になっている」と厳しく指摘し、こんな現状を話した。
「水素ステーションが2億円以上かかったら、ビジネスは成り立ちません。しかも、水素を自動車に充填する際、ドイツは『セルフ方式』を認めていますが、日本は安全性の問題で認められない。ガソリンはセルフ方式がOKで、なぜ水素はNOなのか。ガソリンをセルフ方式で給油するときには、たまには、まき散らす危険がありますが、水素は充填器にロックがかかるようになっているため、ガソリンより安全です」
セルフ方式ひとつを取っても、規制に関する違いがあることを強調したうえで、村上は研究者の立場からこう語った。
「新たなイノベーションが生まれたときに、前の法律で規制したら、新しいものは世の中に出てこない。インフラ整備が日本で遅れているのはそのせいで、『高圧ガス保安法』はぜひ見直してもらいたい。水素社会を実現するには、今までになかった世界を新たにつくるということで、イノベーションそのものです。それを“前の器”の中に押し込もうとするから、無理が生じて結果的に後れを取ってしまう」
インターネットをはじめとするデジタルの世界を見ても、近年、イノベーションのスピードに加速がついている。同様に水素の世界も、イノベーションのスピードに規制緩和が追いついていない状況はできるだけ早く解消する必要がある。