最後は執念の勝負。後ろ向きに走るジェットコースター

とはいえ、ロジカルな手法はここまで。森岡氏の“イノベーション・フレームワーク”の最後のひとつ“コミットメント”とは、やりぬく覚悟や決意、つまるところは精神論だ。

「フレームワークで考えるべきポイントを明確にし、リアプライで世界中からアイデアの断片を探し、自身やチームの持つ情報のストックを活用したら、あとはアイデアを考えつくまで考え抜くことです。粘り強さや情熱がなければ、大きな局面を打開するような斬新なアイデアは生まれません」(同)

子どもの入場料を無料にしたことで逆転勝利した10周年、2012年度オープンの新ファミリーエリア「ユニバーサル・ワンダーランド」と成功を積み重ねてきた森岡は、2013年を乗り切るためのアイデアに苦しんでいた。「予算的には既存のアトラクションをリノベーションするしかない」とわかっているものの、それでいて「ゲストが驚くような付加価値のあるもの」となると、どうしても思いつかない。ボツ案という死体の山を積み上げ、夜も眠れない毎日だったという。

「そうしたらある晩、USJのジェットコースター『ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド』が後ろ向きに走る夢を見たんです。跳ね起きて枕元のアイデア・ノートに書き込み、朝には会社でそのアイデアを発表していました。費用対効果でおそらく世界記録の投資効率を記録したアトラクション『ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド~バックドロップ』の誕生です(笑)」(同)

もちろん、アイデアがお告げのように降りてくる森岡のようなケースは稀だろう。しかし「ある問題について、地球上で最も必死に考えている人のところにアイデアの神様は降りてくる」という森岡の言葉には、努力のぶんだけ説得力があるのだ。

次回は、周囲の反対を突破して、450億円という巨額を投資したハリー・ポッターの新テーマパークのアイデアを通した森岡の説得術に注目する。(文中敬称略)

「USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?」
(角川書店刊)


今回インタビューしたUSJのV字回復の立役者・森岡毅氏が約3年間の復活のプロセスを執筆したビジネス書。独自のフレームワークを駆使したアイデア発想法など仕事で使えるスキルが満載。
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