人気ドラマ「VIVANT」に中国当局がいちゃもんをつけたことが波紋を広げている。なぜ、政治案件ではない、エンタメ分野に口出ししたのか。ジャーナリストの池田和加さんは「『意図的に中国をおとしめている』と声高に抗議してきたのは習近平・中国の焦りの表れではないか」という――。

「VIVANT」は「中国をおとしめている」

2025年11月のことだった。歌手の浜崎あゆみさんは、前日に「不可抗力」を理由に中止が決まった上海でのコンサートの会場に足を運んだ。1万4000人収容の「無人」のホールで、全編を歌い切ったという(※1)。

高市早苗首相が台湾有事をめぐる国会答弁で「存立危機事態」に触れたあと、日中関係が急速に冷え込んだ時期だ。コンサート主催者は中国当局が中止を命じたとは認めていないが、因果関係があるのは自明のことだろう(※2)。

それから1年足らず、中国当局が新たに標的としたのは日本のテレビドラマだった。10月25日、共産党中央宣伝部の管理下にある国営放送、中国中央テレビ(CCTV)のニュースアカウントが、TBS系で放送中のドラマ「VIVANT」シーズン2を「意図的に中国をおとしめている」と批判した。

彼らが問題視したのは、話の中に登場する架空の中国系諜報組織「シンシー」が、自衛隊の秘密部隊「別班」の隊員を拷問する場面である。翌26日には共産党機関紙・人民日報系の環球時報が続き、旧日本軍の行為に酷似していると断じた。

中国の習近平国家主席(=2019年11月13日、ブラジル・ブラジリア
中国の習近平国家主席(=2019年11月13日、ブラジル・ブラジリア)(写真=Alan Santos/PR/Roman Kubanskiy/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)

さらに29日、外交部の郭嘉昆報道官が定例会見で「文化コンテンツを通じて中国をあしざまに描いて中傷し、嫌中感情を拡散することを企てる勢力が日本国内に常に存在することをまたさらけ出した」(産経ニュース)と批判し、国際社会と日本国内の有識者にも「警戒すべきだ」と呼びかけた。

これを受け、日本側では中国からの批判を「事実」と受けとめ、「VIVANTはプロパガンダだ」と投稿する人が一部に現れた。

VIVANTは民間放送局TBSがエンタメドラマとして制作した作品で、無論、日本政府が内容を指示していない。なぜ、習近平氏が率いる中国は、政治案件ではないのに、口出しをしたのか。

抗日作品を量産してきた側が言うのか

中国国内ではこれまで「抗日ドラマ」が量産されてきた。

英誌『インデックス・オン・センサーシップ』は、2012年だけで日中戦争を題材にした映画が約100本、テレビ番組が69本作られたと伝えている。素手で日本兵を真っ二つにしたり、手榴弾で飛行機を落としたりする荒唐無稽な作品は「抗日神劇」と呼ばれた(※3)。

また、英語メディアのシックストーンは2025年7月、「過去4カ月で抗日を扱うショートドラマが10本以上作られた」と伝えている(※4)。これらに対して中国当局さえも「規制」に動いたほど、活発に制作された。

自国では、史実を捻じ曲げた演出で日本を極悪非道の悪役にしたり小バカにしたりするストーリーを大量に流しておきながら、日本の民放が作ったフィクションの悪役には、国営メディアや外交部など国をあげて猛反発しているわけだ。

そもそもスパイものが、他国やその機関を敵役にするのは定番だろう。にもかかわらず、エンタメの領域に政治が介入し、市場へのアクセスを人質にして相手国や企業に圧力をかける……。これこそが、世界が警戒する「チャイナリスク」に映るに違いない。