エムバペとサンリオにも噛みついた
これと同じ時期、自国の市場規模を後ろ盾にした「経済的威圧(ハードパワー)」を振りかざしているように見える中国の動きがあった。
サッカーのフランス代表のキリアン・エムバペ選手は、フランスのネット番組「The Bridge」が10月26日ごろにSNSへ投稿した映像で、自分の顔を別人の体に合成したネットミームについて問われ、「中国の独裁者だと思う」と答えたとされる。映像は中国で炎上し、番組は後に映像を削除した。エムバペ選手の発言は、毛沢東の体に顔を合成した映像を指すとみられる(※5)。
この発言の直後、飲料大手の東鵬、乳製品の蒙牛や他のメーカーが相次いで契約を打ち切り、「国民感情を傷つけるいかなる言動にも反対する」と説明した。CCTVの親組織である中国メディアグループは、ラ・リーガの中継と、エムバペ選手が出る試合の放送を止め、関連広告を外した。エムバペ選手は同日に謝罪した。
こうした「力学」はVIVANTにも波及した。10月28日、サンリオ中国法人が中国のSNS「微博(ウェイボー)」で、VIVANTとのコラボ商品の販売を中止することを発表し、翌29日には日本のサンリオも公式サイトで、日本でのコラボ終了を発表した(※6)。
VIVANTとのコラボ商品は日本でしか売られておらず、共同通信によれば日本国内の販売も止まった。VIVANT自体も中国では放送されておらず、見るにはVPNが必要だ。
サンリオの2026年3月期の中国での売上は約314億円で、前年の約172億円から8割以上伸びている。その影響か、サンリオはドラマと距離を置いたのか。中国当局の姿勢が日本企業の自己検閲を招いた形と言えるかもしれない(※7)。
中国当局の焦りの正体
中国のSNS微博の人気ブロガーは10月に入り、VIVANTを見た中国国民はそのストーリー展開を「設定や演出の不自然さを茶化す反応が多く、荒唐無稽な演出が満載だと皮肉る声が中心」だと紹介し、強い怒りは目立たなかったという(※)。国営メディアが批判を強めたのはその後である。
指導部が「ドラマに口出し」したのはなぜか。
中国の公式統計によれば、不動産開発投資は2026年1~9月に前年同期比20.6%減った。2025年の出生数は792万人で、前年より17%減った。出生率も過去最低で、人口は4年連続で減っている。7~9月期の成長率は4.5%だった(実際の数字は、公表値より低い可能性がある)(※8)。
若者の失業も深刻で、国家統計局によれば、16~24歳(在学生を除く)の失業率は2026年8月に18.9%と最悪水準に達し、9月も18.0%だった(※9)。
若者の間では、激しい競争に疲れて最低限の暮らしを選ぶ「寝そべり(中国語で躺平)」という生き方も広がっている。国内にそうしたネガティブな要素が蔓延し、暗雲が垂れ込める中、「焦り」が生じたのだろうか。

