57万人分のメールアドレスを1580円で販売

侵入を許す要因は、AIだけではない。日本はもともと守りが手薄だった。そこへ高齢化を背景にセキュリティ対策がおろそかになり、企業はデジタル化で後れを取ったと、フィナンシャル・タイムズは専門家の見方を伝える。BBCによると、海外では1990年代に廃れたフロッピーディスクでの書類提出を、日本の役所は2024年まで求めていた。

フロッピーディスクと鉛筆などの置かれた昔のデスク
写真=iStock.com/Pressmaster
※写真はイメージです

ニューヨーク・タイムズによると、企業と政府の橋渡しを担う会社マカイラの創業者、藤井宏一郎氏は、日本が多くの侵入を許した理由として、インフラシステムに修正プログラムが適用されていないことを挙げる。この状況が攻撃者に「最も高い投資対効果」をもたらしていると、藤井氏は述べる。

日本への攻撃が割に合う2つめの理由は、盗んだ情報が金になることだ。

「ログインをすると、このような形で購入サイトに…」

セキュリティソフト大手ノートンライフロックの鴇田宣一氏が、テレビ朝日の取材班の前で画面を操作してゆく。鴇田氏がたどり着いた先は、特殊な方法でしかアクセスできない、匿名性の高いネット空間の「ダークウェブ」だ。

そこでオーストラリアのパスポート画像に付けられた値段は、100米ドル(約1万5800円)。日本から流出したとみられる57万人分のメールアドレスは、約10米ドル(約1580円)で売られている。

「すでに2件売れていますね」と鴇田氏が話すように、ダークウェブでは盗まれた情報が日々売買されている。万一盗まれれば売り物になる情報を、日本企業は十分な守りのないまま溜め込んでいる。フィナンシャル・タイムズによると、専門家は何年も前からそう警告してきた。

退会しても7年間残っていた個人情報

タイムズカーの件は、その典型だ。運営するパーク24は、すでに退会した人の情報まで、退会から7年間保存していた。今回情報が漏れたアカウントは、約660万件に上る。漏れた情報には免許証の画像なども含まれ、冒頭の男性と同じ境遇の人々が免許センターに列を作ることになった。フィナンシャル・タイムズが伝えた専門家の見立てによると、こうした画像はダークウェブで、1枚あたり安ければ25円で売られているおそれがあるという。

パーク24は、画像は暗号化していたと説明し、10月23日時点で漏えい情報の売買や公開は確認されていないとしている。それでも、同社から通知を受けた東京都内の27歳の会社員は共同通信の取材に、「悪用されるのではないかと不安だ」と語る。

日本への攻撃が割に合う3つめの理由は、止まったシステムの復旧に時間がかかりがちなことだ。攻撃者としては、企業が音を上げて身代金を支払うことを期待しやすい。

2025年9月末、国内ビール市場の約4割を占めるアサヒがサイバー攻撃を受けると、全国に30ある工場の大半で生産が止まった。ロイター通信は、同社が得意先を回り、手書きで注文を取ったと伝えている。

その後、すべての工場で生産が一部再開したが、システムの復旧はなお遅れた。BBCが当時取材した酒類卸売会社に勤めるナカノ氏によると、現場では手書きで注文書を書き、FAXで送信して凌いだ。手作業のため出荷は大きく減り、入荷量は普段のわずか1〜2割だったという。