「偉人は最初から偉人だったわけではありません。大切に育てた親がいたんです」と語るのは偉人研究家の真山知幸さん。特に“親の言葉”が偉人たちに大きな影響を与えたといいます。教育評論家の親野智可等さんのコメントとともに紹介します。
「治ちゃん、この漫画はとてもおもしろい。お母さんはあなたの漫画の、世界で第1号のファンになりました」
これは小学生の手塚治(手塚治虫の本名)に母が言った言葉です。当時、漫画=低俗、暴力的、教育に有害なイメージでした。
ある日、手塚は学校で漫画を描いているのを教師に見られて激怒されます。母も呼び出される騒ぎとなりましたが、帰宅後に母が「どんな漫画を描いていたのか見せてちょうだい」と言い、すべてのページを丁寧に読んだうえで言ったのが冒頭の言葉だそうです。
さらに母は、手塚が医者になるか漫画家になるか進路に迷ったとき、好きなほうに進むようにアドバイスしています。
習い事や進路など、子どもに関する選択を迫られたとき、今までやってきたほうをやめると「すべて無駄になる」気がして、親としては反対したくなるもの。でも手塚は医療について学んだ経験を代表作品に昇華させていますし、長期で見れば、実は何も無駄になっていない。「まあ、いつかつながるかもしれないし」……これくらいおおらかなスタンスで、今そのとき子どもが興味を持っているほうにGOを出してやれる、そんな姿勢をこの話から学びとりたいものです。(真山さん)
このお母さんが素晴らしいのは自分の価値観を押し付けず、子どもの「好き」を尊重し、夢を後押しし続けた姿勢ですね。自分らしさを抑圧して育った子はさまざまな情報に触れる中で、30代でアイデンティティーの危機を迎え、人生に迷いを感じてしまうこともあります。約2万人のアンケート調査を行った神戸大と同志社大の共同研究でも「人の幸福感は自分の進路を自分で決める『自己決定』の度合いに、非常に大きく影響される」ことが判明しました。親は自分の価値観を押し付けないように気をつけたいものです。(親野さん)
※本稿は、『プレジデントFamily2026夏号』の一部を再編集したものです。



