一気飲み「割に合わない」
中国には「敬酒」という酒席文化がある。平たく言えば上司から部下、年長者から若者へ飲酒を勧める行為であり、日本でいうところの乾杯や、一気飲みに近い。
敬酒は中国の組織における序列や秩序を確認する文化的な儀礼でもあった。しかし同時に、若者たちにとっては「耐え抜けば確実にリターンがある投資」でもあったのだ。
かつて、部下は上司に「敬酒」を強要されて身体を壊したとしても、服従と引き換えに、引き立てや昇進という果実を分け与えられていた。
若者の視点としても、健康への影響や精神的なダメージというリスクを負いつつ、出世というリターンが得られるため、当時はまだ割に合う取引として成立していたのである。しかし、2021年ごろから始まった不動産不況によって、その取引も将来の報酬と見合わなくなってきた。
2020年頃、中国の景気減速とともに急速に広まった言葉がある。
「内巻(ネイジュエン)」。
パイが増えない中で互いを削り合う、無意味で熾烈な競争のことだ。
服従しても見返りはない
全体の取り分が減っていく社会では、かつての成功法則は機能しない。どれほど酒席に付き合い、上司の顔色を窺って忠誠を示しても、見返りとしての昇進ポストなど初めから用意されていない。「頑張れば報われる」という上司の甘言は、若者にとって絵に描いた餅にすぎない。
胃を痛めながら杯を重ねて媚を売ったところで、翌朝にはあっさり解雇通告を突きつけられるかもしれない。結局のところ、若者が差し出しているのは己の健康と尊厳であり、それは上司の万能感を満たすために消費されているだけなのだ。
例えば2026年1月には、忘年会での飲酒後に死亡した28歳社員の遺族が会社側の責任を追及し、大きく報じられるなど、飲酒による健康被害も中国では多発している。
「若者の宴席離れ」という言葉の裏には、こうした打算的な動きを見てとることができる。彼らは宴席が会社組織の階級システムであるという本質を見抜き、それをボイコットしているのだ。
中国のあるワイン専門家の指摘が、白酒の消費低迷と若者の宴席離れの本質を突いている。
「若者は白酒を飲まないのではなく、白酒の背後にある権力の論理と服従の試練を嫌っている」

