中国の若者の間で、サイゼリヤでワインを楽しむ「サイゼ飲み」が流行している。2026年3月には上海などの店舗で人気ワインが品切れになるほどだ。職場の飲み会を敬遠する若者が増える中、なぜ「サイゼ飲み」が支持されるのか。中国在住のライター、上海在住のえいちゃんさんが現地からリポートする――。
深圳市の和興商場にあるサイゼリヤ
深圳市の和興商場にあるサイゼリヤ(写真=Dinkun Chen/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

店から消えた「ランブルスコ」

現代中国の若者のあいだでは「宴席離れ」が広がっている。一方で人気を集めるのが日本のチェーン店サイゼリヤでの「サイゼ飲み」だ。サイゼリヤは「酒飲みの天国」と呼ばれるほどの人気を集めている。

爆発的な人気ぶりを象徴する出来事がある。甘口のスパークリングワイン「ランブルスコ」※が飛ぶように売れ2026年3月、上海や南京など大都市の店舗から完全に消えてしまったのである。

編集部註:
グラス1杯6元(2026年10月末日のレートで約142円)
ボトル1本36元(同上約850円)

画像1は、店頭に貼られた「ランブルスコ」を載せたイタリアからの便がすでに到着し、今では店頭で再び飲めるようになっている、という知らせだ。

大ヒット銘柄のランブルスコ
筆者撮影
【画像1】大ヒット銘柄のランブルスコ

宴席離れが進むなか、なぜ「サイゼ飲み」が好まれるのか。今回は「サイゼ飲み」から見えてくる、中国の酒席を取り巻く環境と、若者の意識の変化を追う。

読者のなかには実際に中国の宴席に参加された方もおられるかもしれない。そこで提供される酒の代表格が「白酒」と呼ばれる30度後半~60度ほどの高度数の蒸留酒だ。宴席の定番と言ってもよい存在である。出張者や駐在者が相次ぐ挨拶の乾杯で酔っぱらってしまい醜態をさらす、というのは中国での定番エピソードの一つだ。

しかし、この「白酒」の生産量は大幅な下落をしている。最盛期の2016年には年間1400万キロリットルに迫る勢いで生産されていた。だが、現在では400万キロリットル以下と、統計上の生産量は最盛期の3分の1以下の水準にまで落ち込んでしまっている。

【図表1】白酒 生産量(万キロリットル)

「禁酒令」が与えた影響

なぜ、これほどまでに生産量が減少したのか。

改革開放以前の中国では、白酒は配給制で、価格・販売量は国家が管理していた。当時の宴席文化も食べることが中心で、酒はそこに付随するものだった。

しかし、その後の改革開放、WTOの加盟によってGDPが二桁成長を遂げるに伴い、白酒の生産量も爆発的に拡大した。特に2004〜2012年においては白酒業界の生産量年平均成長率は17.77%だった。そして、この期間に「接待=商談の場」という中国式の宴席文化が全土へ爆発的に広がった。

この流れを変えたキッカケとなったのが、2012年12月に定められた「党中央八項規定」である。この規定は公費による宴席や接待の引き締めを打ち出した。その結果、各地で「禁酒令」が出されることとなり、翌2013年12月に発出された関連規定では公務の会食で高級酒を出すことが禁じられた。一連の規制が白酒業界にとって構造的な転換点だった。

当時は売上の5割超を公費による購入が占める有名酒造も少なくなかったと言われ、主要な宴席であった政務需要の消滅が業績に直結した。

中国の大手証券会社、国信証券によれば「党中央八項規定」が定められた翌年の2013年には上場白酒14社の時価総額が2500億元以上も縮小し、業界純利益は11.85%減となった。生産量は2016年頃まで増え続けたが業績の面では2013年前後が転換点となったのである。

この結果、白酒のなかでも高級ブランドとして知られ、政務宴席の定番でもあった「茅台(マオタイ)」の政務消費比率は2012年の約30%から2016年には1%未満まで下がっており、その後も回復していないとされる。つまり、宴席文化の主役がすでに政務から民間へ移行し終えたことを数字が示しているのだ。

それでは、なぜ民間で白酒が飲まれなくなったのか。そこには景気の低迷と、それによって宴席を拒絶する若者世代の姿がある。