「制裁の効果」と「報復の危険」を誰が判断するのか
法律上使えるとしても、資産凍結が解放につながるかは別の問題である。対象者が日本に資産を持たず、日本との取引も乏しければ、日本単独の制裁による経済的な打撃は小さい。米英などと制裁対象や資産の情報を共有し、共同で制裁を科すことも選択肢になる。
報復の危険も検討しなければならない。拘束中の本人の待遇や、現地で暮らす日本人、進出企業に悪影響が及ぶ恐れがある。ただし、これは政策上検討すべき危険であり、政府が制裁を見送っている実際の理由と断定することはできない。
財務省の制裁対象者一覧に掲げられた、現在実施中の外為法に基づく資産凍結等の措置には、邦人拘束を理由に中国・ロシアの関係者を指定したものは見当たらない。ウクライナ侵略を理由とする対ロシア制裁とは区別すべきである。
発動の法的要件を満たすかを審査し、効果と報復の危険を比べて、使うかどうかを決めるのが政治指導者である。
さらに、外務省の組織案内などの公表資料を確認した範囲では、米国のように拘束の不当性を判断する共通基準や、認定後に専門の担当者へ解放交渉を引き継ぐ手続は見当たらない。北朝鮮の拉致問題の専任体制とは別に、外国による不当拘束全般に対応する仕組みが問われる。
「制裁の責任者」と「判断基準」を明確にすべき
制度上の仕組みが見えにくい部分がある。では、実際の交渉について、日本政府はどこまで説明しているのか。
岩屋毅外相(当時)は2024年12月の衆院外務委員会で、複数のルートで拘束されている邦人の解放に向けて中国側と交渉してきたと説明した。委員会の会議録には、司法制度の異なる米国との単純比較に慎重な姿勢を示し、中国側も答弁を聞いているとして、交渉材料の説明を控えた発言も残っている。
この答弁だけでは、どの対抗措置を検討したのかは分からない。現行法の適用が難しいのか、効果や報復を考慮した政治判断なのか。理由が異なれば、必要な対応も変わる。交渉内容を伏せる事情があっても、政府内で誰が措置を検討し、誰が最終判断するかは説明できるはずだ。
日本は領事支援や外交交渉を行っている。しかし、制裁などを誰が検討し、誰が決めるかは、公表資料から分かりにくい。米国型の制度を設ければ必ず解放できるわけではないが、責任者と判断の手順を明確にする点は参考になる。
「抗議の先」へ進むために日本政府がやるべきこと
こうした不透明さを解消するため、対抗措置の検討を統括する責任者と、閣僚が方針を決めるまでの手順を明確にすべきだ。
まず、拘束の政治的目的や証拠の信頼性、裁判の公正さを調べる共通基準を定める。次に、解放交渉を統括する責任者を置く。外務省、財務省、法務省などの担当者を集め、対抗措置や交渉条件を閣僚に提案する権限を与える。家族には責任者の名前と方針を見直す時期を伝える。
資産凍結などが法律上可能かを確かめ、効果と報復の危険を比べて、閣僚が方針を決める。法改正が必要なら国会に諮る。制裁を見送る判断も定期的に見直す。本人と家族の意向を尊重し、交渉上の秘密を守りながら判断の経過を説明する。
日本政府にも領事支援や外交交渉、経済制裁といった手段はある。問われているのは、どの手段を使うか、誰が、どのような基準で判断するのかという点だ。制裁を見送る場合も、拘束が長引く本人や家族の負担を考慮し、その判断を見直す仕組みが必要ではないか。
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