きっかけはコロナ禍
自分を依存症と認めた瞬間、社会から“アル中”というレッテルを貼られる。
それはプライドの高い彼らにとって耐え難い屈辱であり、同時に大好きな酒をやめなくてはいけないという現実と向き合わなければならなくなる。
阿川さんはこれまで建設業の現場監督として働いてきた。仕事に誇りを持ち、作業員からも信頼されていた。若いころから大酒家で、仕事後に仲間と連れ立って飲みに行くのが習慣だった。酔うと気性が荒くなり、喧嘩早くなって警察沙汰を起こしたこともしばしばだった。
10年前、友人の紹介で保育士の妻と結婚し、長女を授かった。家庭を持ったことで責任感が芽生え、妻の勧めもあって、酒中心の生活から少しずつ距離を置き始めていた。
2020年、順調に幸せな家庭を築いてきた阿川家に、不穏な影が差し始める。コロナ禍である。日曜日以外、毎日働いていた阿川さんだが、仕事の受注が減り、時間を持て余すようになる。
店も閉まっており気分転換に同僚と飲みに行くこともできず、家での飲酒が増えた。酔っぱらうと人が変わる性格は相変わらずで妻に暴言や暴力が目立つようになった。ある日、勢い余って長女にも手をあげてしまい、見かねた妻は子どもを連れて家を出た。妻からはまもなく離婚届が送られてきた。
離婚し、仕事も失った
実家に戻ることになった阿川さんは、妻と娘を失って穴だらけの心をさらなる酒で埋めようとした。朝から飲んで酩酊状態で仕事をしたり、飲酒運転で職場に向かった。
阿川さんの言動に危険を感じた職場は彼を解雇する。職を失った阿川さんはここ1カ月、家に閉じこもり、酒を飲むか寝るかの極端な生活を続け、母親の説得で三王子病院を受診するに至った。
「阿川さんはふだんどれくらい飲まれるんですか?」
「焼酎をグラスで2、3杯ですよ。そんなに飲んでないです」
すかさず母親が口を挟む。
「嘘言いなさい(※3)。あんたもっと飲んでるでしょ。最近は買ってきた大きなパックが2日でなくなるんですよ」
※3 嘘言いなさい
彼らが自分の飲酒量を正しく申告することはない。少なめに報告するのがつねなので、実際の飲酒量は家族からの情報で把握する。「否認の病」はここでも発揮される。

