「移民の暴動」という説明に、根拠はない
本題に入る前に、整理しておかなければならないことがある。
トランプ米大統領は、マクロン大統領に向けて国境を閉じて事態を掌握せよと呼びかけ、国境を閉じなければ欧州は終わりだと述べた。さらに、フランスで燃える尖塔と荒れ狂う炎は、急進的な民主党員が米国にしようとしていることだ、とも語っている。10月に出席した集会では、共和党のロジャー・マーシャル上院議員が、急進的なイスラムこそ米国の民主主義にとって最大の脅威だと、フランスを引き合いに訴えた。
AP通信は10月20日のファクトチェックで、この説明を検証している。
結論は明快だった。フランスの当局と警察は、暴力を移民と結びつけていない。特定の集団が責任を負うとも名指ししていない。
宗教施設への攻撃という主張についても、暴力と宗教の直接の結びつきは確認されていない。礼拝所が直接襲われた事実もない。パリのシナゴーグが被害を受けたが、窃盗の未遂とみられている。そして「燃える尖塔」については、火災に遭ったリモージュ市庁舎の鐘楼が、尖塔と見まちがえられた可能性があるという。
映像が何を映し、何を映していないかが、ここに表れている。
急進左派だけでは説明できない
急進左派が原因だという説明も、そのままは成り立たない。当局は一部の暴力の背後に急進左派の活動家がいることを認めているが、暴力の規模全体を彼らで説明することはできない。警察活動の専門家は、急進左派はその規模を担うには小さすぎるとし、略奪の多くは混乱に乗じた犯罪者の仕業だと述べている。AP通信によれば、主要都市で少なくとも3000の店舗が被害を受けるか略奪された。
ここは慎重に書いておきたい。フランスは人種・民族別の公的統計を収集しない。逮捕され訴追された人々の身元も公表されない。したがって暴力に加わった人々の構成は正確には分からず、移民の背景を持つ人が一人もいなかったと断定することもできない。確かなのは、移民が暴力の大半を担ったという主張を裏づける証拠が示されていない、ということである。
移民をめぐる問題がフランス政治に存在しないという話ではない。しかし、運動の発端と要求と、確認されている事実を飛ばして、移民だけを原因に据えることはできない。
そして、この置き換えには選挙上の働きがある。米国の有権者に向けて、民主党が勝てば米国もフランスのようになる、という恐れを形づくることができるからだ。原因を外部の集団に求めれば、物語は簡単になる。その代わり、教育予算も、エネルギー価格も、貧困も、分裂した議会も、視野から消える。

