「中進国のジレンマ」に陥った韓国

私に言わせれば、サムスン電子の問題は韓国が抱える課題そのものだ。

韓国は日本の半分近い人口の国でありながら、金大中氏がノーベル平和賞を取った以外、ノーベル賞受賞者は1人もいない。なぜノーベル賞が取れないかといえば、独創的な研究よりもパクってでも成果を出すことのほうが評価される国だからである。

韓国では伝統的にエンジニアが軽視されてきた。そういう社会では、やはりイノベーションは生まれにくい。サムスン電子も今は研究開発に莫大な資金を投じているが、なかなか成果が上がってこないのは、そのあたりの理由もあるのだろう。

また、より高機能の製品部品や素材を作るような地道な研究開発も韓国は行わない。超小型化や超軽量化を可能にする部品や素材、工作機械などが突然、日本から出てくると、韓国メーカーはそれを買わなければならない。メーカーに寄り添って息の長い改良研究をするような下請け企業の裾野が韓国にはないからだ。サムソン電子と下請け企業は単に発注元と出入り業者の関係でしかない。

こうした産業の“底”の浅さは、韓国が「中進国のジレンマ」に陥っている大きな理由だ。

韓国の国民1人あたりGDPは約2万2600ドル。最近では一般的に国民1人あたりGDPが1万ドルを超えると途上国から新興国になり、2万ドルを超えると中進国、3万ドルを超えると先進国の仲間入り、とされる。

しかし2万ドル経済を超えて3万ドル経済に向かおうとする中進国は、しばしば労働コストや為替が高くなって競争力を失い、3万ドルに近づくと落ちる、という動きを繰り返す。これがメキシコなどが陥ってきた「中進国のジレンマ」だ。

労働コストや為替の上昇を乗り越えて3万ドル経済に突入するために何が必要か。一つは「イノベーション」である。その代表格が日本で、日本企業はイノベーションによって商品力をアップし、5年間で中進国を卒業し先進国の仲間入りをした(スウェーデンは4年で、これが“ギネス”記録となっている)。もう一つは「ブランド」で、イタリアやフランス、スイスなどはブランド力でのし上がった国だ。

韓国の場合、イノベーション、ブランド力ともにまだ発信力は弱い。サムスン電子がそれを克服する突破口を開くのか、はたまた別の企業がその役割を担うのか、今はまだ見えてこない。

サムスン電子の成長神話に陰りが見えたときに、韓国経済自体の抱える“ジレンマ”に思いを馳せなくてはならないところがG7とG20との違い、ということになる。

(小川 剛=構成 AP/AFLO=写真)