投資のプロは2人だけ

CJ機構の投資チームの元リーダーB氏によると、スパイバーに対する追加支援の決定を左右したものは、社長就任直後の川﨑氏の積極的な姿勢だったという。同社長は前述した通り、大和証券の執行役員から投資関係の子会社2社のトップを歴任して同機構に入社した、文字通り投資分野の専門家と呼べる存在だった。

「CJ機構社長は委員会のメンバーの一人で、発言権を持っています。実は26年7月時点の委員会の歴代メンバー23人のうち、投資のプロと呼べるのは初代の槍田松瑩委員長時代の村岡隆史氏(経営共創基盤取締役)と川﨑社長の2人だけ。同社長就任当時の委員長だった萩谷麻衣子弁護士は、自身の見解は極力抑えて、他の委員の意見を引き出す役回りでした。そこに経産省から同機構の業績回復を期待された投資のプロの川﨑社長が登場し、スパイバーに対する追加支援に前向きな姿勢を示したところ、他の委員もこれに納得したようです」(B氏)

ナニイの法則で一発逆転狙ったか

ところでスパイバーのようなベンチャー企業に投資する世界では、「ナニイ(721)の法則」と呼ばれるものが存在するという。ある民間ファンドの経営者が解説する。

「ベンチャー投資は失敗案件が7割、ボチボチのものが2割、大成功するものが1割という法則です。CJ機構のようにリスクの高いソフトな産業への投資なら721どころか901でしょう。同機構は投資分野別のポートフォリオこそ熱心に作成しても、リスクの特性別のポートフォリオは作っていなかったそうです。まあ、あの分野では無理でしょうし、何より官民ファンドとしては政策目的を中心に据えざるを得なかったのでしょう」

だが川﨑社長就任後のCJ機構にはこの法則と同様の発想が芽生え、ナニイの1に当たる「大儲け案件」による一発逆転を目論むようになったようだ。

「その先例となったのが官民ファンドの先輩、産業革新機構です。09年の発足後、18年9月にJICの傘下入りしてINCJと改称、25年3月末に活動を終えた同機構は、出資案件の6割以上で損失を出しました。ところがルネサス社に対する出資だけで約1兆2500億円もの利益を叩き出し、同機構は大成功だったと賞賛されました。そこで川﨑社長も着任早々、CJ機構にとってのルネサス社を求めてスパイバーに110億円を追加支援したものと考えられます」(前出の民間ファンド経営者)

ところがスパイバーはその後、米国での生産に関する手続き上の不備や、円安を背景とする工場建設費などの高騰を受けて大幅な債務超過となった。25年12月期には約364億円の巨額負債を計上。同年12月28日に期日を迎えた350億円の借入金返済のメドが立たず、26年3月には孫正義ソフトバンクグループ会長の長女に事業を譲渡して私的整理する決議を行った。誰も予想だにしていなかった事態で、結果的に川﨑社長は梯子を外された形となった。