経産省が推したスパイバー

その川﨑社長が21年9月、社長就任後第1弾として支援を決めたのが、バイオ系スタートアップ企業「スパイバー」(山形県鶴岡市)の米国工場建設資金110億円だった。

握手する両氏 人工クモ糸の量産支援
写真=共同通信社
スパイバーの関山和秀代表(左)と握手を交わすクールジャパン機構の加藤有治専務。奥は試作品=2018年11月28日午後、東京都港区

スパイバーの繊維素材「ブリュード・プロテイン(BP)」は、鶴岡市にある慶應義塾大先端生命科学研究所で研究していた関山和秀氏らが開発したもの。クモの糸など自然界のタンパク質素材にヒントを得た、世界初の人工合成による構造タンパク質素材であることがセールスポイントで、15年1月に経産省による日本ベンチャー大賞の地域経済活性化賞(審査委員会特別賞)を受賞。同年10月にはスポーツ衣料品メーカー「ゴールドウイン」との事業提携契約に基づく製品第1弾の試作品を発表するなどして、日本発の“ユニコーン”(西洋の神話に登場する伝説の一角獣転じて企業価値の高い未上場の成長企業)と持て囃されるようになった。

実はCJ機構は北川社長時代の18年11月、タイ工場建設資金としてスパイバーに30億円の支援を決定していた。CJ機構投資チームの元リーダーA氏が述懐する。

「スパイバー案件が持ち込まれたのは18年春先のこと。『製品化可能な構造タンパク質素材は間違いなく完成したのだが、鶴岡市の試作品工場では大量生産できない。コストの低いタイに量産用の工場を建設したいので、そのために必要な資金30億円を支援して欲しい』と要望されました。ただ同社は技術系のスタートアップ企業なので、日本文化を海外に広めたり、インバウンドを呼び込んだりするのが目的のCJ機構の支援対象とはなりにくい。そのため当初は、同じ経産省主管の官民ファンド『産業革新機構』による支援が妥当と考えられていたようです」

最初はタイ工場に30億円

しかしCJ機構は結局、18年11月にスパイバーに対する30億円の支援を決めた。A氏は「その背景には経産省からの無言の支援要請があった」とした上で、こう述べる。

「CJ機構の累積損失は当時すでに捨て置けない状況で、経産省も危機感を持ち始めていました。その一方で産業革新機構は同時期、13年9月に支援した半導体メーカー『ルネサスエレクトロニクス』の業績のV字回復を受け、保有していたルネサス社株を段階的に売却して膨大な利益を上げていた。そこで同省は、スパイバーをCJ機構にとってのルネサス社と捉え、『技術もクールジャパンになり得る』という理屈の下、近い将来のスパイバー株上場により同機構の業績を劇的に改善しようと考えたのだと思います」