「任せる=判断できる」人材に育てること
同じ数字でも、理由が違えば、次にすべきことは変わります。趙さんは問いかけに答えながら、数字と現場の出来事を結びつけて考えるようになりました。ここに、単に仕事を振り分けることとの違いがあります。
発注の入力を任せるだけなら、手順を教えれば済みます。しかし、店長として仕入れを判断してもらうには、売上や廃棄、利益まで理解してもらわなければなりません。任せる責任に見合う情報と権限を渡し、判断できるようになるまで教える。金庫の鍵は、その始まりでした。
教える側の負担は、一時的には増えます。坂本さんも、妻との会話で、こう漏らしています。
「任せたら、楽になるんじゃなかったの?」
「任せる前が、一番大変なんだな」
その時間が何を生んだのか。象徴的な出来事が、年末の忙しい朝に起きました。休みを後回しにして働いていた坂本さんは、発注画面を見ながら、机に突っ伏して眠り込んでしまいました。
顔を上げると、時計は午前10時20分を過ぎていました。発注の締め切りは10時です。送信していなければ、翌日の必要な商品が入ってきません。慌てた坂本さんに、中国人スタッフの金麗香さんが声をかけました。
自分しかできないと思い込んでいた店長
内容の確認も済ませているといいます。坂本さんが驚いて礼を言うと、麗香さんは続けました。
そして、静かに続けた。
「あとは私たちでやります」
趙さんも、友人に声をかけて新しいスタッフを探していました。新人の研修も、自分たちが手伝うといいます。坂本さんが眠っている間にも、店は動いていました。自分しかできないと思っていた仕事を、スタッフが引き受け、次に必要なことまで考えていたのです。
坂本さんが経営する港区の4店舗では、店長を務めているのは全員が外国人です。その関係は、最初からできていたものではありません。採用し、教え、失敗を経験し、店の仕組みを変えながら築いてきたものでした。
商品を盗んだ外国人スタッフがいた。現金を抜いた日本人スタッフもいた。一方で、事故の夜に店を守り、疲れたオーナーを休ませようとするスタッフもいた。その一人ひとりを、国籍でまとめて判断することはできません。
不正を防ぐルールは、誰に対しても必要です。そのうえで、日々の仕事ぶりを見て、任せられる人に責任と権限を渡していく。坂本さんは、その両方に取り組みました。「信頼している」と言いながら、大切な情報も判断の機会も渡さなければ、相手はいつまでも指示を待つしかありません。
金庫の鍵を渡すという決断には、「この店を動かす一人として、自分で考えてほしい」という期待が込められていました。その期待を仕事の形にし、教え続けた先で、坂本さんはようやく「あとは私たちでやります」と言ってもらえるようになったのです。
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