深夜の事故で見えた留学生の誠実な姿

手順や確認方法が明確なら、問題が起きた時にも、印象や思い込みに頼らず確認できます。ルールを整えることは、人を信頼して仕事を任せるための土台にもなるのです。

店が落ち着いてきた頃、深夜2時に車が店へ突っ込む事故が起きました。幸い大きなけが人はいませんでしたが、入り口のガラスが割れ、警察への対応や片づけに追われました。

村尾信一『店長、パスタに箸をつけたらお客様がキレました。』(飛鳥新社)
村尾信一『店長、パスタに箸をつけたらお客様がキレました。』(飛鳥新社)

その場を離れず、オーナーの坂本さんや本部に連絡を取り、対応したのが深夜スタッフの中国人留学生・趙建民チャオジェンミンさんでした。一段落すると、趙さんはオーナーに深く頭を下げ、突然呼び出したことを詫び、助けてもらったお礼を伝えました。

坂本さんが見ていたのは、目の前の趙さんの働きぶりでした。以前商品を盗んだスタッフと同じ国の出身だということは、趙さんを評価する理由にはなりませんでした。

坂本さんは、趙さんを店長候補として育てることを決めます。

本部の経営指導員と相談し、発注、売上集計、送金、シフト作成、採用面接など、任せる仕事を整理しました。そして、趙さんをバックルームへ呼びました。

金庫の鍵を預けたオーナーの覚悟

「君を、店長候補として育てたい」
趙は、すぐには意味を理解できなかったようだった。
「僕を……ですか」
「そうだ」

坂本さんは、金庫の鍵を机の上に置きました。

「現金管理もやってもらう。発注も、売上も、面接もだ」
「そこまで、僕が?」
「そこまでやらないと、店長にはなれない」

趙さんは、先輩の留学生が店の商品を盗んで辞めたことを知っていました。その店で金庫の鍵を渡される意味は、よく分かったはずです。

「信頼している、なんて言うだけなら簡単だ」
趙は鍵を見つめていた。
「本当に任せるなら、こっちにも覚悟がいる。店の数字も見せる。PL(損益計算書)もBS(貸借対照表)も見せる。店の金が、どこで増えて、どこで減るのか。自分の頭で考えろ」
「利益まで見ろ、ということですか?」
「そうだ」
それから趙は、ゆっくりとうなずいた。
「……やります」

坂本さんは店の経営状態が分かる資料を開き、毎月、趙さんと数字を読むようになりました。廃棄が増えたのは、なぜか。発注しすぎただけなのか。陳列や補充が遅れ、売る機会を逃したのではないか。

人件費が下がったのは、なぜか。仕事が効率よく回ったのか。それとも、スタッフの欠勤や研修時間の減少によるものなのか。