「私は心配していませんでした」

とは言っても、現代の「炎上」に比べたら可愛いものだった。一方で当時のマスコミはまだインターネット世論の対応に慣れておらず、まるで奈良県内の寺社がこぞって反対しているかのように報道したのだ。

「実際は『別に反対していない、放っておきなさい』と言ってくださる寺社の方がほとんどでしたので、私は心配していませんでした」

籔内先生の公式サイトに寄せられた意見も、決して批判的なコメントばかりではなかった。2月から4月までの投稿総数は約1000通、そのうち批判的な内容は350通ほどだ。

「同じ時間帯に10通、20通と同じ内容のメールが届くのです。一人の方が複数のアドレスから送ってきていたのでしょう。私はそれに、1通ずつ回答していきました」

風向きが一気に変わったのは、その質問と回答をホームページ上に公開してからだ。その誠実な回答を読んだ人が、評価してくれるようになったのだ。日を追うごとに応援メールが増え、批判的なメールは減っていった。

このキャラクターに「せんとくん」という名前が付いたのは、4月16日。公募では、1万4500件もの案が寄せられたという。

遷都1300年祭のイベント後、2011年に「せんとくん」は奈良県の公式キャラクターにも選任された。その際籔内先生は、せんとくんの県庁職員用の装束もデザインしている。

「あの騒動からもう18年経って、いまだにこうして取材していただけるなんて、せんとくんはすごいなあと思いますね」

せんとくん騒動を語る籔内さん
筆者撮影
せんとくん騒動を語る籔内さん

350通の批判メールに、どう答えたのか

騒動当時、籔内先生に寄せられた「ご意見」とそれに対する「回答」は、個人情報を伏せたかたちで今でも公式ホームページ上に残っている。そのやりとりを、ここで一部省略して引用する。

~2008年2月24日 午後11時35分 20代女性~
奈良県民です。マスコットキャラクターの意味知っていますか? 誰かに愛されると思っていますか? 初めて見た時スゴいショックでした。

【ご回答】
私のキャラクターデザインについて、強い嫌悪感をお持ちのようで、たいへん残念に思います。しかしながら、こうした具象的な造形については、第一印象に好き嫌いが出るのはやむを得ないこととおもいますが、なんとかご理解頂けるよう、努力していくつもりです。


~2008年3月3日 午前0時1分 40代男性~
奈良のマスコット批判を受けています。やはり、一般公募して税金支出している県民が選択すべき。世間で報道以上に奈良県民の話題で、みんながあなたの行動に注目しています。ご決断を!

【ご回答】
デザインそのものよりも、マスコットを協会が一般公募しなかったということに対するご批判かと思います。
今回の件で、各種マスコミに取り上げられていますので、宣伝効果は絶大で、金銭に換算すると莫大な金額になることと思います。もう少し気長に見守って頂けませんでしょうか?


~2008年3月5日 午後3時47分 20代男性~
あなたはすぐに「もう少し見守れ」と言う。待っていられないのです。あなたの作品では生理的に受け入れられないのです。だから動いているのです。

【ご回答】
私のデザインを生理的に受け入れられないとまでいわれてしまうと本当に残念ですし、対話ができないほど嫌われていることを悲しく思います。
そんなことばを浴びせられて、自ら命を絶ってしまった小さな命があったことを思い出しました。あなたがしていることはそれと変わらないことに気が付いてほしいと、心から思います。

(強い誹謗中傷を含むため、コメントの一部を省略して引用)

読み返してみると、批判メールの内容と先生の回答は、どこかちぐはぐに見える。18年前のやり取りをもとに、私も先生に質問を重ねてみた。

工房
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工房では、チーム体制で作品を制作している