「あと一段出世すれば…」という思い込み
真中もまた、昇進すれば自分の人生が前へ進むと考えていました。
会社で認められ、役職がつき、給与が上がる。
それまで同期に追い越されているように感じていた真中にとって、昇進は「自分もようやく追いついた」と感じられる出来事でした。
だからこそ、役職は単なる仕事上の肩書ではなくなっていきます。
昇進することが、自分自身の価値を証明することのように思えてくる。
これは決して真中だけの話ではないでしょう。
「課長になれれば」
「部長になれれば」
「年収1000万円になれれば」
今より満足できるはずだ。
もう少し安心できるはずだ。
そうやって、幸福を次の役職や次の年収に先送りしてしまうことがあります。
しかし、佐藤氏の分析が示しているのは、昇進したからといって幸福度が上がるとは限らないという現実です。
ようやく手に入れた役職が、突然なくなる
さらに真中は、別の形でも「役職=自分の価値」という考えを揺さぶられることになります。
34歳になった真中は、ある日、上司の雨野から小会議室へ呼び出されます。
真中には期待がありました。
課長代理として成果を出してきた。次はいよいよ正式な課長への昇進ではないか。
ところが告げられたのは、その逆でした。
新年度から新しい課長が着任する。
それに伴って、真中には課長代理の任を解き、一般職へ戻ってもらうというのです。
真中は尋ねます。
「自分の何がいけなかったんでしょうか」
雨野の答えは、
「君の働きに原因があったわけじゃない。これは会社の判断だ」
というものでした。
仕事を怠けていたわけではありません。
むしろ本人は、以前より懸命に働き、成果も出していました。
それでも、ようやく手に入れた役職を失う。
真中にとって大きかったのは、給料が下がることだけではありません。
「自分は会社から評価されている」という感覚そのものが揺らいだことでした。

