上司にパスポートを没収された
だが、彼のウィーチャットを見るかぎり、ここ1年以上来日した形跡がない。何か理由があってSNSに書かなかっただけなのか、張さんにウィーチャット以外の方法で連絡を取ってみたところ、冴えない様子で返信があった。
「実は、しばらく前から会社の上司にパスポートを取り上げられているんです。私だけでなく同僚の中にも同じ人がいます。それで大好きな日本に行けなくなってしまいました(涙)……日本の温泉が恋しいのですが……」
張さんは大学卒業後、上海市内の企業に勤務しており、品行方正。留学経験はないが、英語が堪能で、日本語も独学で学んでいる。技術者ではなく、それ以外の職種だ。そんなごく一般人の男性でさえ、上司にパスポートを取り上げられているとは、一体、何が起こっているのか。
実は、私は以前も同様の話を小耳に挟んだことがあった。コロナ禍の2021年ごろ、内陸部のある大学の教授から聞いた話だ。
「出国できませんから!」と怒鳴られ
コロナ禍のとき、中国各地で「健康コード」という個人の行動履歴やPCR検査の結果などが記録されているアプリが開発されたことを覚えている人がいるかもしれない。当時、その大学では毎朝、SNSで学部の責任者に自分の健康コードを提示して「問題なし」と連絡する義務があった。何時間も連絡しないと上層部から連絡がきて大変な騒ぎになる。さらに、省をまたぐ外出と海外渡航は、原則禁止となった。
その教授によれば「この時期以降、パスポートを上司に取り上げられているという話をあちこちで聞くようになりました。対象者は公務員、国有企業の社員、一部の大学の教員」で、中国共産党幹部ももちろん含まれる。だが、一般企業の会社員からは、そうした話を聞くことはなかった。ただし、「空港で突然、出国を止められた」というケースは数年前からすでに起きていた。
2023年~24年頃、私の友人が上海から来日しようと空港のイミグレーションに並んでいたところ、自分のすぐ前の人がカウンターで口論していた。よく聞いてみると係員から「とにかく、あなたは出国できませんから!」と怒鳴られていたという。その人は別室に無理やり連行された様子だったので、その後どうしたかわからないが、友人は私に「怖いですよね」と話していた。

