今後、世界での抹茶価格は低価格化する

抹茶に必要なのは、この道ではないか。産地に加え、品種、覆いをかけた日数、挽き方、そして等級――「セレモニアル」という空語の代わりに、業界自身が定義した基準をラベルに掲げること。GI登録で「日本産」という土台はできた。その上の格付けは、法律を待たなくても、今日から始められる。

生産の現場も危機感を持つ。前出の岩本涼さんは、国際日本茶協会のインタビューでこう語る。

「これから海外での抹茶生産が始まると、世界での抹茶の価格はどんどん低価格なものにリプレイスされていくと考えています。そういった世界のなかで日本の抹茶が勝つためには高付加価値なものである以外の勝ち筋がほとんどない」

幸い、2025年の緑茶輸出額は約721億円と前年の約2倍に達し、追い風は吹いている。※4

守るべきは「純血」ではなく「正直さ」

断っておくが、これは「日本の食に触るな」という話ではない。天ぷらはポルトガル伝来の揚げ物が源流で、トンカツとコロッケは仏コートレットとクロケットの和製、カレーは英国経由のインド製だ。借りて磨いて自分のものにするのは日本の得意技であり、どこの国も同様のことをしてきた。

そもそも、抹茶自体が、宋の点茶を磨き上げた再解釈の傑作である。ヨーロッパの人がマンゴー抹茶やピンク抹茶を楽しむのも自由だ。問題は再解釈ではなく、基準なき「誤表示」の放置だろう。

そのいい例が「わさび」だ。海外の寿司店で出てくる「wasabi」の多くは、本わさびとは別物の、緑に着色した西洋わさび(ホースラディッシュ)を使った加工品である。

それでも「wasabi」は世界共通語になった。そして本家の足元では、国産の沢わさびの生産量は2006年からの15年で6割近く減った。

その間隙を突くように、海外での本わさび栽培が広がっている。日本のわさび加工大手カネクも、台湾やインドネシアに加え「最近では中国」などでも栽培されていると解説する。ジェトロによれば、世界に広がった「wasabi」の棚には、日本以外の産地のものがすでに多く流通している。抹茶と同じ構造だ。※9

わさび
写真=iStock.com/karinsasaki
すりおろしたワサビ