「2~3日食べず、子どもや嫁に回す」
悲惨なのは子どもがいる家庭だ。運輸業の契約社員として働く愛知県の40代の男性の月給は20万円以上25万円未満。男性はこう語る。
「食べ盛りの子どもが3人いる。生活が困窮しているので自分は2~3日食べず、子どもたちと嫁に回すことがある」(以上、非正規春闘実行委員会「非正規労働者生活・賃金実態調査2026」より)
非正規雇用で働く人たちに大きな影響を与える最低賃金を決める大きな要素の1つに労働者の生計費がある。最低賃金法第9条3項には、「労働者の生計費を考慮するに当たっては、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう」という規定がある。しかし日本には健康で文化的な最低限の生活費とはいくらなのかという基準が存在しない。
北区28万8664円、高知市29万1570円
全国労働組合連合会(全労連)は最低生計費調査を実施している。全労連の最低生計費試算調査は、賃貸ワンルームマンション(25平方メートル)に暮らす25歳の男性・単身者が暮らす地域の7割が所有する物品を含む生計費を試算したものだ。
例えば高知県高知市の男性は7割が自動車を所有しているので交通・通信費に含め、東京都北区の男性は自動車を所有する人が7割もいないので含めない形で試算している。
そうすると2026年5月以降の最新の調査によると、北区の男性の1カ月の交通・通信費は1万633円だが、高知市の男性は4万972円になる。北区の男性の合計最低生計費は28万8664円、高知市の男性は29万1570円になる。
ちなみに時間額(月150時間)にすると北区の男性は1924円、高知市の男性は1944円とほぼ変わらず、地域間格差はない。ちなみに10月以降の東京の最低賃金1280円に対し、高知は1086円にすぎない。最低生計費を「健康で文化的な最低限度の生活費」とすると、最低賃との乖離は大きいといえる。
正社員初任給35万円超はごく一部
実は非正規雇用の人に限らず、正社員であっても低い給与に甘んじている。世間では「初任給インフレ」と呼ばれるほど引き上げが相次ぎ、有名企業の多くが軒並み30万円を超えるなど大きな話題になっている。
ファーストリテイリングの37万円をはじめ就職人気企業の伊藤忠商事36万円、三菱商事35万円、損害保険ジャパンは34万6610円。理系ではNTTデータグループの31万2000円、ソニーグループの36万3000円、トヨタ自動車も30万円……と、有名大企業の正社員の初任給は30万円超が普通になりつつある。
しかしこうした企業は働く人のごく一部にすぎない。日本の労働者の7割を占めるのは中小企業だ。
主に中小企業の製造業が加盟する産業別労働組合の「ものづくり産業労働組合」(組合員数約39万人)の従業員300人未満の今年の春闘の妥結額は前年比1万2604円(4.61%)と過去最高の賃上げを獲得した。
しかし賃上げしても300人未満の企業の30歳の賃金水準は25万8831円(月額)にすぎない。1~99人の企業は25万300円とさらに下がる(JAM「2026年春季生活闘争総括」)。いずれも前出の約29万円の最低生計費を大きく下回っている。過去30年間にわたり賃上げが止まっていたことを考えると、この数年間賃上げが続いているといっても、今のインフレ下では大多数の若年労働者が普通に暮らせる給与に達していないということだ。

