車がないのに渋滞防止に力をいれる
人の集まらない政治都市で、都市を動かす仕組みだけが周到に整えられている。
渋滞が起きる前に、中央の管制ハブが交通をデジタルで監視し、北京や重慶のような渋滞の発生を防ぐ。ブルームバーグは、雄安新区の綿密な渋滞対策をそう紹介した。
ほか、電力ケーブルなど主要なインフラの多くは、維持管理をしやすくし街路をすっきり保つため、地下の大規模なトンネルに収められている。近未来的な都市設計だ。
もっとも、その管制システムがさばくはずの車は、整然と延びる街路をほとんど走っていない。深圳のような無秩序な都市の拡大を許さない設計は、他都市を悩ませてきた問題の回避を狙ったものだ。だが、都市を都市らしくしている雑多な要素まで排除してしまった。
中国政府の計画を研究する学者のコベル・メイスケンズ氏はブルームバーグに対し、「計画されたスマートシティは未来の場所とされている」が、大都市を魅力的にしている雑然とした街の営みがなければ「誰も住みたがらない」と指摘する。
住宅にも縛りがかかる。投機を防ぐため当局が価格を厳しく統制し、完成前の物件を売り出す「青田売り」が禁じられている。数百万人の出稼ぎ労働者と起業家が押し寄せ、無秩序に膨れ上がりながら賑わいを見せた深圳とは、まるで反対の発想だ。
「家を返せ」と当局に抗議した住民
人口のほとんど伸びない、雄安新区。真新しい街区がどこまでも広がるその光景は、地元の人々の暮らしを犠牲に成り立っている。
雄安一帯は水の集まる低地で、たびたび浸水に見舞われてきた。ブルームバーグによれば、1963年の大洪水を機に恒久的な建築物の建設が禁じられた。
建物の建たない土地だったからこそ、新都市の建設地に選ばれた。CNNによれば、街は200年に一度の規模の洪水にも耐えられるインフラを備え、路面が水を吸収する「スポンジシティ」機能も導入されているという。
ただし、その安全は、街の外の土地が水を引き受けることで保たれる。2023年夏、140年ぶりの豪雨がまず北京西部の山間部を直撃すると、当局は北京と雄安の「絶対的な安全」を最優先した。
豪雨に備えた7月20日、水利部の李国英部長は「洪水を(雄安の)外縁部にとどめ、新設された堤防にかかる洪水対策の圧力を軽減する」よう、分水計画の策定を指示している。
そして7月30日、あふれた水を意図的に流し込む「遊水地」に指定されていた区域への放流に踏み切った。そこには数十万人が暮らしていた。
河北省涿州市では、街路や住宅が水深数メートルの濁流に沈んだとCNNは伝えた。覇州市では、住民が市政府の前に赤い横断幕を掲げた。「家を返せ。洪水は放流によるもので、豪雨による被害ではない」
河北省トップの倪岳峰党委員会書記は、同省を北京の「堀」と呼んだ。この発言は反発を招き、検閲当局は後に中国のインターネット上からこの発言を削除した。

